NBAバレエ団「スターズ&ストライプス」
2016.12.3&4 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

2of 3
NBA Ballet Company
Stars and Stripes

あやかしと縦糸

振付・演出/平山素子

二山治雄
和とのバランス

 二つ目の『あやかしと縦糸』は振付・演出を平山素子が担当した。平山素子はバレエがベースにあるが、モダンダンス、コンテンポラリーダンスの振付家・ダンサーとして活躍している。その優れた身体感覚から独特の動きを生み出し、魅力的な踊り手でもある。

 この作品では、暗いホリゾントから1人、そして2人と観客席に向かってゆっくり進みながら踊り始める冒頭がとても印象的だ。幽玄の空間から登場する踊り手といったイメージである。そして動き出したときに、女性の動きが平山特有の柔らかくスピード感のある動きで、男性は少しおとなしく見えたが、次第に男性の動きも個性を見せ始めた。そして振り付けられた動きだが、ところどころダンサーの個性が見える。後半のそれぞれの短いソロ的パートなどは特に個性的である。
 前半途中から、舞台中程に左右一杯の低いカーテンのようなものが登場する。3mほどの高さの細い縄がいくつも簾のような状態で、手や体を出したり、部分的に開いて奥を見せたりできるもので、奥に光が当たると紗のように半透明になる。そのため奥に蛍光的な緑や赤などで体を照らし、向こう側とこちら側を見事に対照する場面も多かった。彼岸と此岸、幻想と現実のように、奥と手前の舞台空間を使い分け、その意味が自然と観客に浮かぶものだった。
 この作品はタイトルどおり、日本的なモードを生かす意図で音楽を茂野雅道に委嘱して作曲させた。それは安易に和楽器を多用するものではなく、さまざまな楽器とともに声をうまく生かした作品だ。発せられる声はシンプルで、日本語の母音を中心としたものだが、ダンスとともに聴いていると、日本語らしさに引っかからない。それだけ自然な音づくりを心がけたようだ。
浅井杏里、新井悠汰、伊東由希子、大森康正、岡田亜弓、河野崇仁、鮫嶋美里
清水勇志レイ、高橋真之、竹田仁美、土田明日香、三船元維、峰岸千晶、森田維央
 グレーを基調に色が入ったぴったりとした衣装の大森康正、高橋真之、竹田仁美、峰岸千晶などのソロ、そしてゲストの二山治雄が絡む。ソロでは、それぞれの個性ある動きが展開するところに平山の自由な発想を感じさせた。後半の声の場面にはもう一つテンションがほしいが、和のモードを強調しすぎず、じわっと幽玄的な世界を生み出しているところは見事だった。
 ゲストの二山治雄は、2014年、ローザンヌのコンクールにおいて、17歳で1位となり注目を集めた。男性で1位は熊川哲也以来なので、テレビでもかなり話題になった。ローザンヌでは、コンテンポラリーバレエ作品も見事にこなしていたのが印象的で、この舞台でも平山作品にしっくり馴染んでいた。
 個性的な衣装の堂本教子は、大駱駝艦に始まり舞踏やコンテンポラリーダンスの舞台の衣装を数多く手がけている。また印象的なスリットの舞台美術は、平田オリザの青年団を始め、多くの優れた演劇やダンスの舞台を生み出してきた杉山至だ。映画やドラマでも活躍する作曲者茂野雅道も含めて、優れたアーティストを結集して、平山が見事に一つの舞台にした、再演が求められる作品といえるだろう。