2021都民芸術フェスティバル参加公演
(公社)日本バレエ協会 
2021.3.6&7 東京文化会館
コンテンポラリーとクラシックで紡ぐ"眠れる森の美女"

1o2
Japan Ballet Association

【第一章】 Little Briar Rose(いばら姫)
音楽:ピョートル・チャイコフスキー 他

振付・構成・演出:遠藤 康行


Photographer's Eye

コンテンポラリーダンスに接する時、心がけていることがあります。無垢な少年のように頭と心を真っ白に、心の扉を全開にして舞台に接することです。カメラマンの私は、ニュートラルからフルスロットルまで自在に加速できる機動力も必要です。
そのために、開演前にプログラムはほぼ読みません。作者の創作意図などはいわずもがなです。それでも嫌でも目に入り、気になるのが「Little Briar Rose」のタイトルです。Briar Roseは茨姫(いばらひめ)ですがLittleは何を意味するのか?そこを起点に舞台に臨みました。
オーロラ:木村 優里&金田あゆ子
バレエの全幕物を見慣れていると、主役・ソリストを加えて20人の登場人物は東京文化会館の広い舞台には物足らないだろうと想像していました。ところが、幕が開いた瞬間から縦横無尽に飛び回る姿と躍動感に、思わず人数を数えました。間違いありません20人だけです。

おそらく主役のオーロラ姫らしい可愛らしいおさげ少女がピンスポットの中に座っています。女子高生?と感じたことに加えて、カラボスがあまり邪悪でなく、それほど圧倒的な存在でないことに気づいた時に、クラス全体を見守り統率する高校教師に見えてきました。さらに物語が進むと、圧倒的なパワーのコロナと無能な政府に翻弄される尾身茂さんにも見えてきます(笑)

オレンジ:石山沙央理/緑:原田 舞子/黄:木ノ内乃々
赤:梶田 留以/青:柴山 紗帆/紫:金田あゆ子 
この高校のクラスは最初一つにまとまって見えたのですが、どうやら3つか4つのグループに分かれているようです。ボス的な存在はいなくて、オーロラがリーダー格のソリスト(妖精?)からいじめの標的になり、じっと目を閉じてそれに耐えています。

が、被害者と加害者が逆に映るのも現代のSNS社会ではよくある現象です。真偽は観客に委ねられているのでしょう。

まるで転校生のように颯爽と登場したデジレ王子と出会い、やっとつぶらな瞳と笑顔が花開き、恋に落ちたことは一目瞭然です。人を愛することで成長する姿は現代版「ロミオとジュリエット」のようです。
仮面をつけたグループがゲバ棒のような武器を持ち暴れる場面はコロナ禍の人間関係を表現しているようですが、遠藤さんは「仮面は無機質な現代のネット社会や、今回のコロナのように無表情で社会を食い荒らすようなイメージ」と表現しています。無表情の象徴としての仮面なのですね。
オーロラ:木村 優里&王子:渡邊 峻郁
カラボス:高岸直樹
はるか頭上にあった茨が地上に降りてきました。逆に言えば、人間の方が異世界に近づいているのかもしれません。
一人ひとりが三角や四角の白いフレームの中に入るのが、個人のスペースのようにも見れるし、自身の内面のようにも映るのですが、そこから逃れようともがく様は人間そのものです。それぞれ違う動きで飛び出そうと努力する姿がちょっと滑稽で悲しく、なぜか美しく見えました。
茨の森のように見えたものは、個人個人が描いた幻影の集合体だったのかもしれません。姜尚中さんが「不安・不信・不況 の3つの“不”に国民は青ざめている。」と発言しましたが、イバラはそんな私たちがとまどう姿を代弁しているかのようです。
遠藤康行作品「Little Briar Rose」はあらゆる価値観を溶かし、ひとりひとりの心に問いかけてくれました。ハーレクイン・ロマンスでは終わらない。自らが選択し自らの足で歩き始める現代のオーロラのなんと心強いことでしょう。

コロナ禍のリハーサルでは、マスクや消毒は当たり前、激しい動きのために呼吸困難やリハ時間短縮などの困難を乗り越えての本番だったようです。

“バラは死んでも棘を残す”と言われます。「Little Briar Rose」は2晩で幕を閉じましたが、その情熱とスピリッツは語り継がれるに違いありません。

STAFF

振付・構成・演出:遠藤 康行
美術:長谷川 匠
音楽監修:平本 正宏
衣裳:朝長 靖子
バレエ・ミストレス:梶田 留以
アシスタント:原田 舞子