2014都民芸術フェスティバル参加公演
東京シティ・バレエ団「白鳥の湖」全幕

2014.1.25 ゆうぽうとホール

3of 3
 
Tokyo City Ballet
Swan Lake

 第4幕は、紗を通した光景がなんとも見事。上半分が霧のかかった幽玄な雰囲気を醸している。白鳥たちの配置もアシンメトリーで、そこに登場する王子ジークフリード、オデットとロートバルト。幻想的な世界に思わずのめり込んだ。
式典長:堤淳 王妃:安達悦子

王子とロートバルトの闘いの後、白鳥たちが人間に戻っていくという演出は、ドラマツルギーとしても説得力があった。特に物語を取り巻く群舞の構成が巧みで、アシンメトリーな構造から、最後はオデットを取り巻くところが、螺旋状の構造になっていき、伏せた白鳥と主人公たちとの対比など、非常に美しく感動的な場面を演出していた。

これを支えているのは、足立恒の抑えた照明でもある。衣裳も、前述の道化の足と腕が左右異なる黒と白の対比であったり、民族的な群舞でも片足のみのアクセントなど、巧みにシンメトリーを破る要素を入れていることも面白かった。

 石田は、かつてバレエに日本人としての個性をどう加えるかに挑戦して、『枯野』などの作品を発表している。1988年、交通事故で脳挫傷など、九死に一生を得、1年9カ月の入院後、リハビリして復活、振付と後進の指導を続けた。1995(平成7)年には原爆をテーマとした『ヒロシマのレクイエム--うしろの・しょうめん・だあれ』を発表する。そこでは、音楽に秋田県西馬音内(にしもない)の死者の盆踊りの囃子(はやし)を使っているが、これは舞踏家土方巽の故郷の踊りで、土方舞踏のルーツの一つといわれる。
「踊りは風である」、「舞踊は動きから発生するものではなく、闇と静寂から生まれるものだ」、「動かないのも、踊りである」という言葉は、舞踏家のものではない。こう書く石田種生は、バレエの枠を超えて踊りの思想を追求しているといえるだろう。そしてまた、米国コロラドバレエ団を始め、スイス、韓国でも『エスメラルダ』を振り付けるなど、国際的にも活躍した。
 石田は1960年に最初に『白鳥の湖』を踊った際に、ブルメイステル版に基づき、なおかつ第2幕の白鳥の登場を上手から1列ではなく、左右両側から登場させるという独自の試みを行った。そして10年間に5回の改定を続けたが、ロンドンの地下鉄の乗客の動きを見て、イワノフ版の正しさを認識したと、著書に書く。

そのため今回の『白鳥の湖』は、プティパ、イワノフ版に基づいて1969年に振り付けられたが、ハッピーエンドを含めて、随所にブルメイステル版の影響を受けているとも考えられる。また、今回のパンフレットに再録された石田の文章によれば、「このバレエはジークフリードの青春を描いた、男の舞踊」、「1人の男の過ちと成長という普遍的な物語」であり、「私の生き様を映し出した、男の物語でもある」という。そんな亡き石田の思いを黄凱が描こうとした舞台だった。

黄凱 小林洋壱
 現在、日本で上演されるバレエの古典の上演は、より古典に近づくことを目指すことが主のように見える。もちろんそれは意味があるのだが、一方で、新たな振付に挑戦してほしいとも思う。石田種生は、1960年代からその挑戦を続けて、多くの振付作品を生み出してきた。その間に、上記のように古典との間で葛藤した。その石田作品の一端に触れ、随所に見える新しさ、美しさ、面白さなどに石田美学を感じるにつけ、この振付家の逝去を惜しむ。ぜひ他の作品も含めて、今後も積極的に上演してほしいと願うものである。

2014.1.25 ゆうぽうとホール所見

舞踊批評家 志賀信夫

STAFF

音楽/P.I.チャイコフスキー
芸術監督/安達悦子
演出・振付/石田種生(プティパ、イワノフ版による)
演出助手/金井利久 
ゲストバレエマスター/ラウル・レイモンド・レベック
バレエマスター/中島伸欣
バレエミストレス/長谷川祐子 加藤浩子 
民族舞踊指導/小林春恵 

指揮/井田勝大
編曲/福田一雄
演奏/東京ニューシティ管弦楽団 

美術/横田あつみ
照明/足立 恒
衣裳/小栗菜代子
大道具/(有)ユニ・ワークショップ 
衣裳製作/工房いーち 
舞台監督/橋本 洋 
舞台監督助手/淺田光久 
後援/東京バレエ協議会
主催・制作/東京シティ・バレエ団