谷桃子バレエ団 新春公演「眠れる森の美女」
16.1.15〜17 東京文化会館大ホール

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Tani Momoko Balleti
「Sleeping Beauty」

 第3幕のディヴェルティスマンの「青い鳥」のパ・ド・ドゥ(斎藤耀・牧村直紀)を、今から120年前の世界初演の時には、当時有数のテクニシャンであり、後に権威あるバレエ教師となったチェケッティが踊った。コーダで彼が見せたブリゼという鳥が飛ぶように見えるステップが評判になった。それを今の時代に再現した斎藤・牧村の透明感の漂う軽やかな演技には、次の時代の谷桃子バレエ団への期待感を込めた大きな拍手が送られた。
デジレ王子:三木雄馬&オーロラ姫:永橋あゆみ
三木雄馬&佐々木和葉
魔女カラボス:舘形比呂一
 もうひとりの主要人物であるカラボス(舘形比呂一)は、プロローグ、第1幕、第2幕と現われるが、フィナーレの第3幕には出てこない。『眠れる森の美女』を見る時は、それぞれの幕に登場してくる主役級の演技者たちの、丁々発止のやりとりを思いきり楽しむに限る。

 エルダー・アリエフの振付は、伝統に反することなく手堅く全体をまとめ上げたもとなっていた。てきぎ省略して正味2時間半に仕上げた。チャイコフスキーの書いた音楽を全部使ったら4時間以上かかることになり、現代の忙しいお客様たち向きではない。どこのバレエ団でも、いかに上手に省略し、オリジナルの感動をまるごと伝えるかで苦労している。

金の精:藤原彩香
銀の精:浅野華子
サファイアの精:中野裟弓
 こんどの谷桃子バレエ団の『眠り…』は、カラボス以外はすべて所属ダンサーによって上演された。外人ゲストをまん中に据えてやるところが多い風潮に待ったをかけたのかもしれない。バレエ団の公演を見続けていると、そこで育って行くダンサーの成長ぶりが見えてくる。だんだんうまくなって、まん中で踊るようになり、しだいに出演が間遠になって、ついに舞台を去るところまで見届けるのが私の流儀だ。外人ゲストの踊りのうまさを楽しむのも良いが、長く時間をかけてひとりのダンサーの舞踊人生をじっくりと味わいたいと私は思っている。
ダイアモンドの精:藤井紫乃
子猫:松原久仁子&長靴を履いた猫:中村慶潤
青い鳥:牧村直紀&フロリナ姫:齊藤 耀
赤頭巾:黒木未来&狼:菅沼寿一
シンデレラ:山口緋奈子&フォルチュネ王子:酒井 大
 こんどの『眠り…』のひとつの見どころは、舘形比呂一のカラボスだった。彼はバレエ以外の舞踊の世界であるジャズ・ダンスで育ち、そこでスターの座についた。東京文化会館を満員にしたお客様の中には、彼を見に来た人もかなり多かったのではないか。私は、はたして彼はどうなるのだろうかと一抹の不安を抱きつつ、登場を待った。しかし彼はみごとに大舞台に収まった。谷桃子バレエ団の人たちとの間にある、あるていどの距離感が、カラボスという異質の存在を際立たせ、舞台を活性化させたのだ。彼とエルダー・アリエフとの対談が公演パンフレットに掲載されている。これはなかなかおもしろい読物だ。
デジレ王子:三木雄馬&オーロラ姫:永橋あゆみ
 谷桃子バレエ団の全団員が、けんめいに初めての『眠り…』全幕の舞台に取り組んだ後のカーテンコールの拍手はしばし鳴りやまなかった。劇場ロビーには、かつてここの舞台で踊っていた先輩ダンサーたちの姿が多数見られた。彼らもその舞台を支えるひとりとして出演者たちに激励を送っていたと思う。そんな雰囲気の中での、出演者たちの緊張感はたいへんなものがあったはず。舞台に「堅さ」があったことは否めない。

 新たに谷桃子バレエ団のレパートリーに加わった『眠れる森の美女』全幕が、何度も再演を繰り返すことで、ゆったりと大らかな楽しみにあふれた、世界に誇れる「バレエの中のバレエ」になって行くことを期待しつつ、私は劇場を後にした。

2016年1月15日/東京文化会館所見

舞踊批評家 やまのはくだい

STAFF

芸術監督:齊藤 拓
監修:イリーナ・コルパコワ/Irina Kolpakova
改訂振付:エルダー・アリエフ/Eldar Aliev
原振付:M.プティパ/M.Petipa K.セルゲーエフ/K.Sergeyev
音楽:P.I.チャイコフスキー/P.l.Tchaikovsky
舞台美術デザイン: ヴャチェスラフ・オークネフ/Vyacheslav Okunev
衣裳デザイン:ヴャチェスラフ・オークネフ/Vyacheslav Okunev
舞台装置・衣裳・小道具製作:ヴォズロジジェーニ社/
The Theatrical Shop Vozrozhdenie in St.Petersburg

照明:足立 恒(インプレッション)
舞台監督:伴 美代子

指揮:河合尚市
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

主催:一般財団法人谷桃子バレエ団
企画:赤城 圭
制作:谷桃子バレエ団制作部