谷桃子バレエ団
コンテンポラリーダンス
「トリプルビル」
17.7.2 かめありリリオホール

3of 3
Tani Momoko Ballet

Contemporary Dance Triple Bill

「Pêces ペシュ」
振付/広崎うらん
衣裳/宮村 泉
ヘアメイク/石田弥仙
振付助手/佐藤洋介
 通常、ダンスの振付家はダンスカンパニーに所属して注目されるとか、海外での活動で知られることで、日本で活動が活発化する人、あるいは何らかのコンペティションで登場する人がほとんどだろう。だが広崎うらんはそうではないようだ。バレエ、ダンス経験は長いのだろうが、テレビのMC、タレントとしてやドラマに出たりするところから出発して、振付家として新国立劇場でも振付を依頼されるほど、有名な存在になっている。以前から名前は見ていたが、舞台を見るのは実は初めてだ。
 パウエル=プレスバーガー監督の有名な『赤い靴』はモイラ・シアラーが不思議な赤い靴に踊らされて、恋人と踊りの選択の間で葛藤して、死んでいくという物語である。

 この広崎うらんの振付作品は、その「赤い靴」のモチーフを借りる。モイラ・シアラーの演じた役ヴィクトリアを踊る髙部尚子は、優れたバレエテクニックを持ち、モダンダンス作品などでもさまざまに活躍してきたが、現在、谷桃子バレエ団の芸術監督である。小さい身体が躍動し、そのテクニックと演技は、今回、演劇的場面でも十分に生かされている。相手役に当たる男性を演じたのは齋藤拓で、長身を生かしたダイナミックな動きは注目に値するものだった。そして笑いを誘ったのは、靴屋役の赤城圭である。赤城は現在、このバレエ団団長でもあるが、コミカルな演技を見事に演じていた。

齊藤 拓/髙部尚子/赤城 圭
 映画の中でこの役を演じていたのは、実はレオニード・マシーンである。バレエ・リュスの振付家・バレエダンサーとして一世を風靡した。ここにも米国のバレエ界やショーダンスにバレエ・リュスの影響が大きかったことがうかがえる。この舞台では赤城の靴屋は、同時に、映画で主人公を抜擢して舞台に乗せるバレエ団長レエルモントフ、映画ではセルゲイ・ディアギレフを連想させる役柄を兼ねているようにも思えた。
尾本安代、髙部尚子、伊藤範子、樋口みのり、雨宮 準、山口緋奈子、松村優子、前原愛里佳、斉藤加津代
永井裕美、下元菜瑠美、種井祥子、島 亜沙美、谷口真菜、篠塚真愛、岩田光加、佐藤 舞、大宮 涼
赤城 圭、齊藤 拓、守屋隆生、中村慶潤、石井潤太郎
 作品はバレエ、ミュージカルの映画の場面のようなイメージで始まる。華麗な衣装の男女がバレエテクニックで踊り、多くの出演者によりまさに米国の映画を見ているようだ。エンターテイメントを意識した作品のため、楽しく見続けられる。
 次の景ではその衣装を脱ぎ、工場のような背景となり、現代を意識したモダンな雰囲気のダンスショーに変わる。だがそのなかでも、登場する赤い靴や靴屋の登場が全体のイメージに一貫性を与えている。いわゆるコンテンポラリーダンスを感じさせる新しさはないが、歌わないバレエミュージカルのような情景、そして見事に構成・演出されたダンサーたちの踊りと動きを楽しい気持ちで最後まで見続けることができる、上質のエンターテイメントバレエといえる作品であった。おそらくバレエダンサーには違和感なく自分のテクニックを生かして踊れる作品だったのではないか。シェイクスピアの『恋の空騒ぎ』を連想させる場面、髙部や赤城のコミカルなやりとりも楽しいし、齋藤拓の伸びやかかつダイナミックな動きもいい。そして、尾本安代の去る場面など、足立恒の照明が見事に演出していた。
 広崎うらんの紹介を見ると「タンツテアター」の作品を振り付けているとあるが、タンツテアターと書くと、ノイエタンツ、ドイツ表現主義舞踊の流れを汲んでドイツで生まれたクルト・ヨース、そしてピナ・バウシュなどの作品をイメージさせる。単にダンスと演劇を融合したものはショーダンスやミュージカルなどでずっと作られてきて、「シアターダンス」とでもいうべきものだが、タンツテアターはそうではないはずだ。ヨースやピナ・バウシュの作品を見ればわかるが、「楽しく見せる」エンターテイメントではない。従って、この舞台はむしろシアターダンスという感じだろう。
 万人が楽しめるダンスの舞台をつくるのはいいことだが、既視感はあった。前の2つの舞台も、20年前のコンテンポラリーバレエ、ダンスと大きくは異ならない。『ノンダンス』の男性の上の大の字倒立の場面以外は、「見たことのない」と思わせる情景は得られなかった。ただ、通常バレエを見ている観客に対して、バレエ団として提供する舞台としては、かけ離れ過ぎないという点で、受け入れやすいものだったと考えられる。

 現在、ほとんどのバレエ団がクラシック、古典バレエの定番上演が主体で、新しい作品の上演は少ない。このような形で新しい才能を生かすという企画は意味がある。これらを広げて、できれば現代の振付家による創作バレエにも、バレエ団はぜひとも挑戦してほしい。バレエで鍛え上げた優れた身体が、新たな表現に挑戦する姿を、ぜひとももっと見たいと思うのだ。

17.7.2 かめありリリオホール所見

舞踊批評家 しがのぶお

STAFF
芸術監督/髙部尚子
バレエミストレス/大塚礼子、日原永美子
バレエマスター/中武啓吾
構成/赤城 圭
照明/足立 恒((株)インプレッション)
舞台美術/(有)ユニ・ワークショップ
音響/河田康雄
舞台監督/伴 美代子
主催/一般財団法人 谷桃子バレエ団
尾本安代