谷桃子バレエ団
コンテンポラリーダンス
「トリプルビル」
17.7.2 かめありリリオホール

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Tani Momoko Ballet

Contemporary Dance Triple Bill

「セクエンツァ」
振付/島地保武
音楽/ルチアーノ・ベリオ
振付助手/酒井はな、高比良 洋
音楽編集/岡 直人
衣裳協力/後藤早知子、YUMIKO
志賀信夫の「動くからだと見るからだ」
「トリプルビルの魅力」
 谷桃子バレエ団はクラシックバレエ作品とともに、最近、コンテンポラリーダンスの振付家などによる作品を積極的に上演している。今回は、島地保武、柳本尚寛、広崎うらんの3人がそれぞれ振り付けて、「トリプルビル」として上演した。会場はかめありリリオホール、東京・JR亀有駅前の複合ビルに入った葛飾区営ホールである。

 島地保武は、2000年代初め、金森穣主宰のNoismの初期メンバーの一人として注目を浴び、2006年からはウィリアム・フォーサイスのザ・フォーサイス・カンパニーに参加した。その後、独立して自ら振付作品を発表するようになり、能楽師津村禮次郎とのコラボレーション作品『薮の中』など、個性的な作品を発表している。また、著名なバレエダンサーの酒井はなとコンビを組み、「アルトノイ」として活動している。今回のこの作品でも酒井が振付助手としてクレジットされている。余談だが、同じ振付助手にクレジットされている高比良洋にも注目している。
 イタリアの現代音楽ルチアーノ・ベリオのヴァイオリンソロ曲の鋭角的な音とともに、男女ペアが踊る冒頭は印象的である。特に赤い衣装の女性、蓮池ういの動きがまず目についた。動きはコンテンポラリーバレエらしい、金森やフォーサイスの作品と共通する伸びやかな動きとテンションの強さが特徴的である。そして新しいペアが登場し、さらに男性がもう1人という5人で踊る。
そこからさまざまに人が出入りして、次第に緩い動き、ホリゾントで両足を開いてバタつかせる動きなどが混ざる。そのバリエーションはさまざまに男女が入れ替わって、踊りが展開するが、基本的にはベリオのヴァイオリンのテンションが作品の基本を形作っていく。『セクエンツィア』もベリオの作品名から取っており、中世につくられたカトリック聖歌の名前である。アレルア(ハレルヤ)の後に歌われる「続唱」と訳される。
 紫の女性ダンサーのソロなど、ソロとデュオ、そして日常的な動きが混ざり合うが、音の強いテンションに支配された展開の中で、一人が倒れたときに床を強く踏む音とともに照明が消えて、一度、カーテンコールのような状態をつくり、観客が拍手する。だが、一人は手前で横たわり、左の幕から一人が顔を覗かせるなど、コミカルなイメージで、音楽が変わるが、前の暗転は「景」の終わりにすぎないことがわかる。
 そこから生楽器によるノイズっぽい音、トロンボーンやパーカッションなどの音による音楽になり、それまでのカラフルな衣装の男女に加えて、2色で揃えた女性2人なども登場して、多くのダンサーたちで、「混沌」的な情景が描かれる。音楽も混沌とした感じで、全体的に無秩序的に見えるなかでも、明確な踊りも混ざり、その混沌が高まり、盛り上がっていくと、再び床を鳴らす音とともに、今度は客席の電気がつく。そして一人がマイクを持って、会場の時計を見て「いま5時半」といい、再び舞台が展開する。音楽は次第に抽象的に叙情が混ざったものに変わっていき、揃えた動きや群舞などを含めた展開になる。バレエ的な動きも含めて、それぞれのダンサーが能力を発揮するように展開し、叙情的な盛上りのなかで幕が下がって終わっていく。

佐藤麻利香、 山口緋奈子、竹内菜那子、馳 麻弥、古澤可歩子、蓮池うい
吉田邑那、安村圭太、守屋隆生、横岡 諒、市橋万樹、池澤嘉政

 全体的にスキルが高いため動きのバリエーションは見応えがある。また、ベリオの曲も多様な展開となり、それに合わせた動きの展開は見応えがある。ただ、客電や「時間」の発言などの意外性の演出も含めて、80年代からのコンテンポラリーダンスの文脈に織り込まれており、新しさは感じられない。女性ダンサーが戸惑いなく踊っているところには、酒井はなの力も関わっているように感じられた。