篠原聖一バレエ・リサイタル
 「アナンケ 宿命」
2018.11.11 メルパルクホール

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Dance for Life 2018

 やがてフェビウスとフルール(平尾麻美)の婚約式が開かれる。その場でジプシーたちが舞うが、男は美しい婚約者がいながらもエスメラルダに魅せられ深い関係になっていく。フロロもまた同じ彼女に想いを募らせるが、女の心はフェビウスのもとにある。
フェビウス(近衛隊隊長):青木崇&フルール:平尾麻実
ファビウスとエスメラルダは愛しあう。フロロはこの男に迫り殺し、今度は女に濡れ衣を着せ捕らえる。フロロに代表される人間の悪と欲も作品中で大きな見どころだ。

 しかしカジモドはエスメラルダを救い、そしてノートルダム大聖堂にかくまう。女はそんなカジモドの心の美しさに心安らいでいく。そんな女にフロロは自分か死のどちらかを選ぶように強要するが女はそれを拒否する。純粋な生き様と宿命を描く下村の演技からは目が離せない。

グランゴワールがルイ11世に嘆願したがかなうことなく、エスメラルダは殺されてしまう。フロロはその姿を聖堂の塔の上から見守る。そんな悪人をカジモドは怒りから突き落し殺してしまうのであった。醜い出で立ちの男の中に潜む心情も大きな見どころだった。

青木崇&下村由理恵
原作はローラン・プティ版が牧阿佐美バレヱ団によって上演されたし、NBAバレエ団はこのテーマのバレエの原点である「エスメラルダ」(ペロー・プティパ版)を復元上演している。篠原による本作はストーリーは忠実にしながら振付・演出がオリジナルな優れたドラマだ。クラシックの踊りのすばらしさを堪能できる良版で、クランコやプティのムーヴメントの中にはその時代のダンスとの接点も見いだせる。
山本隆之&下村由理恵
下村由理恵& 佐々木 大
篠原は現代作品を得意とする環境で学んだり、「サロメ」でコンテンポラリーダンスの笠井瑞丈を起用するなど、バレエと現代表現の接点でも研鑽を重ねている。試行錯誤を重ねながら自然に自由な精神を持ったダンサーたちと新時代のバレエを育んでいる。戦後に形成された日本の創作バレエのスタイルより軽快で現代的な持ち味には好感を持てる。
ルイ11世:小原孝司 処刑人:川村海生命
ファム・ファタルは言葉では描き切れない世界や感情表現、演者の持ち味が重要なものだ。ボードレールの「悪の華」の挿絵を手掛けバレエの美術も手掛けたこともあるルイ・イカールのイラストや絵画に出てきそうな女たちだ。時折上演される「マノン・レスコー」は日本で人気の演目だ。篠原聖一の手掛けた作品では「カルメン」は下村の踊りが特に冴える人気の代表作であり「サロメ」や「椿姫」のハイライト版も話題となった。原作の文学性をしっかりとバレエを通じて表現しながら、同時に作品に貫かれた人間と愛というテーマを描いたことが作品を上演に導いた。

2018年11月11日、メルパルクホール所見

舞踊批評家 よしだゆきひこ

STAFF
芸術監督・監修/篠原聖一
バレエミストレス/下村由理恵
照明/足立 恒
照明操作/(株)インプレッション
音響/藤居俊夫、佐藤利彦
舞台装置/法村友井バレエ団
大道具/(有)ユニ・ワークショップ
舞台監督/堀尾由紀、森岡 肇
制作/Dance in Deed!