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STAR DANCERS BALLET
「STEPTEXT」

2005年スターダンサーズ・バレエ団3月公演

2005.3.12&13 ゆうぽうと簡易保険ホール


志賀信夫の「動くからだと見るからだ」

W・フォーサイス『ステップテクスト』
 観客が入ると舞台ではすでにダンサーが踊っている。いわばエチュードからそのまま作品に入っていく。これはフォーサイスの常識を破る話法の一つ。

 赤いレオタードの女性1人に男性3人。女性と男性のデュオ、男性同士のデュオが相手を変えて、淡々と繰り広げられる。時に女性を取り合うようなそぶりを見せる。そしてソロ。これらが組み合わされる。踊りはバレエベースだが、独特のよじれた動きや日常的な動作、手話のような動きの対話が混ざる。背景中央には白地に黒線で道と壁を抽象化した板が立てられ、照明は主に左右からで、闇に身体がくっきり浮かび上がる。その踊りのストイックな緊張感のなかで、バレエの動きに独特の新しい動きが混ざる。そして何度もぶち切られるバッハの『シャコンヌ』とともに、見る者に強い衝撃を与える。突然の「緞帳落とし」、つまりダンス際中に幕が降りてくることも、緊張を加速する。

「ステップテクスト」

振付・舞台装置・照明・衣裳/ウィリアム・フォーサイス
振付指導/アントニー・リッツィ
音楽/J.S.バッハ“シャコンヌ”
音響/島 猛

 この『ステップテクスト』は、1984年、ウィリアム・フォーサイスがフランクフルトバレエ団就任直後に上演した初期の傑作『アーティファクト』の一部である。それ以降独立した作品としてたびたび上演されており、最も上演回数が多い、フォーサイス振付の原型ともいうべき作品だ。そして、この作品は、当時ポストモダンダンス、ダンスのディコンストラクション(脱構築)などといわれたが、日本でコンテンポラリーダンスが流行するきっかけになったといえるかもしれない。このようなポストモダン、脱構築などの概念によって、哲学など他ジャンルからダンスを見て批評・発言する人が増えたことが、観客層を広げてきたのだ。発表から20年が経過し、フォーサイスの動きは多くのダンサー・振付家に影響を与えたため、いま見ると必ずしも特別新しくはないが、それでも特権的、独特なテンションを持ち続けている。
橋口晋策&福原大介
西島千博&小池知子
 スターダンサーズ・バレエ団は1997年にこの作品を上演した。そのときは、いまベルギーのシャルロワ・バレエ団にいる遠藤康行が目についたが、全体の印象は正直いって「ちょっと甘い」というものだった。フランクフルトバレエ団による80年代の日本初演から何度か見ていたこともあり、その差が気になった。
 しかし今回は段違いに優れている。フォーサイス振付のCD-ROMの発売や、フランクフルトバレエ団出身ダンサーのワークショップなどもあるので、フォーサイスの動きとコンセプトは日本でも研究され、定着しているということなのだろうか。あるいはダンサーたちの意識が変わってきたのかもしれない。今回は特に女性ダンサーの小池知子がいい。非常にしっかりした、のびのびと動く身体、フォーサイス独特のちょっとよじれた動きなどにも、無理なく素直に対応し、クラシックな動きとの落差がない。若手の新人らしいが、海外のバレエ団で鍛えたような雰囲気。最初外人の客演とも思わせるような、ちょっと日本人離れした動きが垣間見えた。
橋口晋策&小池知子
 西島千博のソロはダイナミック、さすがと思わせるところがあり、ソロはボリューム感があった。また、女性との絡みは抑えられて非常に巧みだった。福原大介のソロは対象的にほっそりとしているが、芯の強さ、伸びやかな自在さが感じられて、とても印象に残る。フォーサイスなどの作品に合う現代的な動きと感性を持っているようだ。
 この作品を久しぶりに見て、ダンサー同士がかわす手話めいた動きなど、やはりコンテンポラリーダンスに対する影響の大きさが感じられたが、同時にこの端正なストイシズムは、他の振付家には真似のできないものだと改めて思った。なお舞台手前の両袖から奥に照明が斜めに当たるパートで両袖が光るのには、ちょっと視線がそがれた。

 フォーサイスの作品はその後ずいぶん変貌し、そのたびに話題になり、影響を与えている。しかしこの原点としての『ステップテクスト』は、その当時与えたインパクトとともに踊られ続けるだろう。クラシックのバレエ団がレパートリーとして上演することは、保守的な観客にインパクトを与え、新しい世界に触れる機会を与えるという点でも意味があるだろう。

福原大介&小池知子