ルジマトフ 藤間蘭黄 岩田守弘
 日本舞踊&バレエ「出会いー信長NOBUNAGAー」
2015.10.11&12 国立劇場 小劇場

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ーNOBUNAGAー
RUJIMATOV RANKOU MORIHIRO

 そして有名な本能寺の変。これらの情景は背景の映像でイメージさせる。和の模様、そして雲の揺らめく空から不穏な雰囲気で青い照明。青の照明に赤が混ざり、赤紫となって、より謀反の意識を増した光秀が、信長のいる本能寺に攻め込んでいく。そして赤い照明の高まるなか、信長は自刃する
ファルフ・ルジマトフ&藤間蘭黄
 これで終わるかと思うと、笛太鼓や囃子の奏者たちが舞台の中に出てきて、中心を取り巻いて演奏を始める。合わせて聖歌が流れる。そして蘭黄の光秀と秀吉となった守弘の対決。奥の台上には、白い衣装のルジマトフの信長。蘭黄と守弘の激しい絡みの果てに光秀が討たれ、秀吉による仇討ちが成就すると、信長ルジマトフは、聖歌とともに昇天する。
岩田守弘
《本能寺の変》のフォト・コラージュ
成功の要因

 まず、蘭黄が「信長」を題材にしたのは、正解だった。ルジマトフ、蘭黄ともに信長を演じるのが似合う踊り手であり、蘭つながりで蘭黄が蘭丸というのも考えられた。しかし、信長についていわれるエキセントリックな部分を考えると、ルジマトフに感じられるハレの感覚は狂気につながる。その意味でも優れた配役だった。

 さらに、今回の作品が成功した理由の一つは、岩田守弘の起用だろう。岩田は蘭黄の日舞の思想と振りを、体を通して翻訳してルジマトフに伝えるのに適任だった。日本人でありながら、ロシアのバレエ団で高く評価されたテクニックと、バレエの思想を理解している岩田だからこそ、可能になった、共同振付といえる。さらに、藤吉郎を演じるのも身軽で適任、そのバレエの動きに、巧みに日舞の動きを取り入れていた。

 琴と太鼓を中心とした音楽の選択もよかった。三味線よりも抽象化が可能であり、かつ現代音楽や西洋音楽の雰囲気も醸し出すことができた。足立恒の照明も見事の一言に尽きる。シンプルな舞台に物語性を与えた。また、ルジマトフの衣装は、今年ミラノデビューを果たした落合宏理のブランド、ファセッタズムで、両性具有的なエロスも含めて、ルジマトフに非常に合っていた。
 そして、この作品は、何よりもルジマトフの圧倒的な身体の力と、シンプルにそぎ落とされた蘭黄と守弘の振付・演出によって、踊りと身体の動きをリアルに感じさせた。少なくともここには、これまでのバレエと日舞の共演では生まれ得ないような、希有な瞬間が何度もあったと、明言することができる。この3人の今後の新たな取組みにも期待したい。

2015.10.11 国立劇場小劇場 所見

舞踊批評家 しが のぶお

STAFF

照明:足立 恒
美術:河内連太
舞台監督:清野正嗣
映像(「信長」):立石勇人
衣裳デザイン・製作(「信長」):FACETASM
<主催>ロシア文化フェスティバル日本組織委員会