NBAバレエ団「真夏の夜の夢」
2019.5.25&26 新国立劇場 中劇場

2of 2
NBA Ballet Company
A Midsummer Night’s Dream

《惚れ薬》

 妖精パックのいたずら好きは周知のところだが、惚れ薬を瞼に塗るというのがポイントである。これはパンジーの花の汁である。ギリシャ神話でも愛の神エロスがパンジーを見つけて、愛の花とする。エロスはキューピッドなので、つながっている。ちなみにこのパンジーとは三色スミレらしい。

 惚れ薬というと媚薬、相手を好きになる、もしくは性的に興奮させるもので、ドニゼッティの『愛の妙薬』(1832年)というオペラも有名だが、遡ればキューピッドがハートを矢で射抜くことではないだろうか。また、心を矢で射抜かれた、というのは、「一目惚れ」を説明するものだと思う。つまり、なぜ、人は惚れるのか、どうしてか、わからないが惚れてしまう、という永遠に答えられない疑問がそこにある。

大島 淑江 &新井 悠汰
須谷 まきこ& 安西 健塁
ボトム:古道 貴大
佐藤 圭&古道 貴大
《パ・ド・トロワ》

 『夏の夜の夢』がバレエになって浮かび上がるのは、三角関係、そして四角関係である。1人の相手を奪い合う三角関係が相互的になって4人が絡まってしまう。バレエではその構造がわかりやすく描かれる。

 ところで、通常、バレエでパ・ド・トロワを見ていると、時に三角関係のように見えることがある。1人の男性ダンサーが2人の女性ダンサーと登場し、交互に踊り3人で踊るという、男性としては羨ましい構成が普通だが、そこには時折、女性同士の嫉妬のようなものを感じてしまう。

 実際に踊り手としては、もう1人の女性より優れた踊りを見せようという競い合いがあるのかもしれないが、それは時には、男性を取り合うようにも見えるのだ。パ・ド・キャトルの場合はあまり感じられず、2組のデュオと見えるのだが、一対二という奇数の構造がそれを思わせる。

ライサンダー:安西 健塁/ヘレナ:須谷 まきこ/デミトリウス:新井 悠汰/ハーミア:大島 淑江
三船 元維& 前沢 零
《恋の本質》

 二股(ふたまた)というと聞こえは悪いが、「自分はこの2人のどっちがより好きか」といった疑問を抱くことはあるだろう。あるいは、一つの恋から別の恋に移るときは、同様のことを経験するのではないだろうか。この物語はそういった心変わり、恋愛における人の心理や感情の変化を戯画的に描いたものと考えることができる。実際には、目が覚めたら別の人を好きになっていたということはなくても、相手がいるのに、急に別の人にときめいた、などという経験は多くの人が体験しているはずだ。そして、相手を振り向かせようとしても、うまくいかない。そう簡単に相思相愛は手に入れられないものなのだ。

 そういう恋愛というものが持つ大きな課題が、この物語を生んでいる。だからこそコミカル、戯画的な話であっても心に残る。それが実は一夜の夢なのか、あるいは現実なのか、そういう恋の本質が、この『真夏の夜の夢』にはあるのかもしれない。

舞踊批評家 しが のぶお

STAFF
芸術監督・演出/久保綋一
振付・演出/クリストファー・ウィールドン
作曲/マイケル・モーリッツ
バレエ・マスター/榎本晴夫、久保栄治、鈴木正彦
バレエミストレス/浅井杏里、関口祐美
舞台監督/千葉翔太郎
舞台美術デザイン/ロス・コルマン、安藤基彦
照明プラン/ジェフ・ジョーンズ
照明プラン・照明/辻井太郎
映像プラン/エリック・パーソン
映像:立石勇人((株)ワンハーフスタジオ)
音響プラン・音響/佐藤利彦
衣装デザイン/デビッド・ハウウェル、仲村祐妃子
衣装製作/キャロライナ・バレエ、 仲村祐妃子