NBAバレエ団「真夏の夜の夢」
2019.5.25&26 新国立劇場 中劇場

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NBA Ballet Company
A Midsummer Night’s Dream

デミトリウス:新井 悠汰/ハーミア:大島 淑江/ライサンダー:安西 健塁
ヘレナ:須谷 まきこ

志賀信夫の「動くからだと見るからだ」

「夏の夜に見る夢」

《真夏と夏》

 真夏の夜の夢、夏の夜の夢。日本語の音としては、「なつのよのゆめ」のほうが収まりがいいと思っていた。原題「A Midsummer Night's Dream」の「midsummer」を「真夏」と訳したことから、前者が定着したようだ。確かに「mid」というと、middleと同様の語原として「中」という意味だが、それを「真夏」というのは少々直訳的だったようだ。実際には「midsummer」は夏至のことで、6月21日前後、日本も含めた北半球では、1年でいちばん昼が長い時期だ。だからといって最も暑いわけではない。夏至などの分類を二十四気というが、それによると、夏至のあとに小暑(しょうしょ)、大暑(たいしょ)と続き、その大暑、すなわち7月24日頃が一番暑いとされる。つまり夏至から「真夏の夜」ならひと月ちょっと先ということだ。この物語でも、実際に「真夏の夜」であれば、日本では寝苦しくて、とてもこんな夢を見られないかもしれない。つまり時期としては「初夏の夜の夢」ということかもしれない。

《妖精パック》

 それはともかく、『真夏の夜の夢』(1595〜96年)と聞くと、おそらくだれしも、まず「パック」という名前が思い浮かぶだろう。いたずらな妖精としてのイメージが定着している。このパック自体はシェイクスピアの創作ではなく、英国の伝説に出てくる妖精であり、元はケルト神話の「プク」らしい。それはまた「ゴブリン」と同一視されるというが、ゴブリンはトールキンなどでも醜い怪物である。伝説上のパックはいろいろ姿を変えるらしく、足が山羊の半人半獣ともなるらしい。その点は、今回併せて上演された『リトル・マーメイド』、半人半魚の人魚とも共通するかもしれない。

 ところで、シニア以上なら馴染みのあるTBSラジオ「パックインミュージック」のパックはこの妖精がモチーフだった。60〜70年代は、ラジオパーソナリティ(DJ)が一世を風靡する時代だったが、タモリもこの番組で注目されたのがブレイクにつながった。ちなみにいまのDJとは違い、ディスクジョッキーといい、ラジオ番組でレコード(ディスク)をかけながら話をする人、元々はアナウンサーなどだ。

オベロン:三船 元維& ティターニア:佐藤 圭
須谷 まきこ&新井 悠汰
パック:前沢 零
《入れ替わり》

 この『真夏の夜の夢』の物語は、次のように展開する。相思相愛であるライサンダー(安西健塁)とハーミア(大島淑江)。だがハーミアの父はデミトリウス(新井悠汰)と結婚させようとする。そして、ハーミアの友人ヘレナ(須谷まきこ)はそのデミトリウスを愛している。そこで、ライサンダーとハーミアは逃げて森で待ち合わせる。

 一方、妖精の王オベロン(三船元維)と妻のティターニア(佐藤圭)は美しいインドの少年をめぐって仲違いしている。オベロンは妖精パック(前沢零)に命じて、眠るティターニアの瞼に、目覚めて最初に見た者に惚れる薬を塗らせる。

 またパックは、森に来た職人ボトム(古道貴大)の頭を魔法でロバに変える。すると目を覚ましたティターニアは、ロバのボトムに惚れてしまう。

 さらにパックは、森で寝ていたライサンダーたちにも惚れ薬を塗る。するとライサンダーとデミトリスがヘレナを愛するようになり、関係が入れ替わる。そして起こる混乱で3人、4人が入り乱れる大騒動になる。

 最後にオベロンが魔法を説き、めでたしめでたしという結末である。メンデルスゾーンの音楽(1826年)も親しみがあるもので、特に『結婚行進曲』として知られる曲がかかると、ついほほえんでしまう。