NBAバレエ団「The Little Mermaid」
2019.5.25&26 新国立劇場 中劇場

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NBA Ballet Company
The Little Mermaid

マーメイド:竹田 仁美
カニ:三原未来、河野崇仁
志賀信夫の「動くからだと見るからだ」

「だれでも楽しめるミュージカル型バレエの誕生」

アンデルセンの『人魚姫』は童話や絵本で親しまれている物語だ。デンマークといえば「人魚」というほど象徴的な存在で、これは人魚と人間の切ない恋の話。ディズニー映画もあり、だれでも知っている物語といえる。

NBAバレエ団は近年、次々と新しい創作に挑戦してきた。今回の『リトル・マーメイド』もその一つで、2018年9月に初演された作品に基づいている。振付は、リン・テイラー・コーベット。ブロードウェイのミュージカルなどを数多く振り付けており、有名なエミー賞を二度受賞している。ダンスで知られる映画『フットルース』の振付も担当した。NBAバレエ団では『ガチョーク讃歌』、そして創作『HIBARI』などを振り付けている。『HIBARI』はその名のごとく、歌手美空ひばりをテーマにしたエンタテイメント作品だった。

フグ:飛永嘉尉
エンジェルフィッシュ:青島未侑
ヒトデ:大島沙彩
タツノオトシゴ:白井希和子、平居郁乃
今回の『リトル・マーメイド』は2018年の初演に加えて、歌手の歌った歌が流れるミュージカル型バレエともいうべき作品に仕上がった。音楽はマイケル・モーリッツ。ディズニーのテレビ番組、『グレイトギャッツビー』の舞台などの音楽を担当し、ブロードウェイの音楽ディレクターとして活躍している。

舞台は二つの場面に分かれている。海中の人魚の王と王女リトル・マーメイド、そして地上の王と王子である。海中の人魚、リトル・マーメイドは地上に憧れる。そして美しい声を持っている。だが、その声を奪いたい海の魔女がいる。何とか奪おうと迫る魔女を王女たちはかわす。

メカジキ:高橋 真之
この作品では、特にこの魔女が秀逸な存在だ。正義と悪では、悪魔の側はコミカルな存在として笑いを誘う。魔女を踊る浅井杏里が実に巧みである。浅井はルードラでベジャールに学び、ジュニア時代からベルリンで活躍し、帰国してNBAに入った実力派バレリーナである。
海の魔女:浅井 杏里
マーメイドの姉たち:猪嶋沙織、阪本絵利奈
そして、魔女の声の綿引さやかの歌と相まって、面白さを爆発させている。美声と悪声という対比は、正義と悪という対比と重ねられている。魔女の声とナレーターをつとめる綿引さやかは、ミュージカル版『リトル・マーメイド』をはじめ、ロサンゼルスのハリウッドボウルでの『美女と野獣』や『リトル・マーメイド』コンサート版にも出演しているため、この作品にはぴったりといえる。
ソニアの友だち:鈴木恵里奈、勅使河原綾乃

ソニア:峰岸千晶&クリスチャン王子:大森康正

さて、地上に出ようとしたマーメイドは、溺れた地上の王子を助けてしまう。その美しい声で導いて王子の命を救う。朦朧とした意識の中で救われた王子には、救ってくれたマーメイドの顔や姿はわからない。そして助けられ、浜辺に打ち上げられた王子を見つけた村娘たち。その一人ソニアが、自分が王子を救ったことにしてしまう。

このソニアを演じる峰岸千晶が見事である。NBAではベテランで、王子を演じる大森康正とともに最近のNBAバレエ団を支えてきたといえる。身長もありしっかりとした体つきで、繊細な役もダイナミックな役もこなせるバレリーナだ。一種の敵役を巧みにこなしていた。

浅井杏里
魔女の脚:多田 遥、古道貴大