2023都民芸術フェスティバル参加公演
(一社)現代舞踊協会
「家路」
23.3.14&15 渋谷区文化総合センター さくらホール

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Contemporary Dance Associtation of Japan
「家路」


志賀信夫の「動くからだと見るからだ」

「白鳥に思いをのせて」

太陽、海、白鳥

 大作である。3・11、東日本大震災をテーマにした作品だ。始まりは映像。穏やかな海岸、中央に少し岩が見え、波が寄せる。遠くの空に太陽が静かに昇っていく。ゆっくりとズームで近づいていくと、太陽が大きくなり、同時に波も大きく荒く見えてくる。波の音もそれとともに大きくなっていく。一見、静かな海が、実は大きな力を秘めていることがわかり、少しずつ怖くなっていく。やがて映像は太陽だけになる。すると、その下に白い衣装の一群が縦に集まって立っている。ここから紗幕が上がり、舞踊の舞台になる。

 その白い一群が踊り出すと、白鳥であることがわかる。袖なしでドレープのある柔らかい白い衣装は、チュチュやトゥシューズではないが、その姿とその動きはまさに白鳥を感じさせる。そこからの群舞が、とても見せる。最初の小集団が次第に増えて、大勢が速いテンポで次々と圧倒的な踊りを展開する。体のキレもよく脚も高く上がり、テクニックとともに迫力がある。

 その中に女性の鋭い回転や男性の高いジャンプなど、流れるエンヤの音楽が耳に入らなくなるほど強烈な群舞が、この作品の一つの肝かもしれない。衣装は女性も男性も一緒でみんな白鳥、同じ動きのユニゾンが数人ずつなど分かれて複雑に絡み合うが、時折男性ならではの大胆なジャンプや動きも見せる。総勢33人が踊るダイナミックな「プロローグ」だ。そしてそれは、白鳥たちすべてが強烈な力を受けて倒れる姿も描いていく。
下村由理恵
石川雅実
震災から

 本作は、2011年11月、つまり東日本大震災から8カ月たって川崎で初演され、話題になった。その後、2014年に神奈川、2019年に名古屋で再演された。そして今回、震災から22年目の2013年3月に、東京で上演された。
 今回は、バレエの下村由理恵、愛知県で活動するモダンダンスの石川雅実、さらに舞踏の大駱駝艦の村松卓也をゲストに迎えた。初演時は震災の記憶も新しく、多くの人々が作品にその思いを重ねたことだろう。だがそれから12年。東北以外の現在の20代には、わずかな記憶しかない。おそらくそれを知るのは、毎年繰り返されるテレビの報道くらいではないだろうか。だからこそ、舞台作品で上演されることは、若い世代には新鮮だろう。

 この作品は、2011年当時、振付家井上恵美子が抱いた強い思いが表れるものになっている。そして、再演を繰り返し、22年後の現在、見ごたえのある作品として再び結実した。舞台美術や衣装の材料には、福島県浪江町と元浪江町在住の舞踊家の協力を得て、震災時の流木や廃材などを利用したという。公演会場の渋谷文化総合センター・大和田 さくらホールのロビーには、こうしてつくられたオブジェが展示された。
ひな鳥の行進
柴野由里香、山田愛子、浮亀美有、水井真亜子
絶望、祈り、再生

 「プロローグ」の次には、下村由理恵のソロと組み合わさる19人の女性の群舞「海」が展開する。下村は、落ち着いたエレガンスを漂わせる踊りで存在感を出し、そのなかで震災後の場面が描かれていく。それは、舞台手前で石川雅実がソロを踊り、上手奥の四角い空間に5人が集まった「離ればなれになった母子」につながる。次の女性4人による「ひな鳥の行進」は、そこに舞踏家の村松卓矢がカラフルな衣装で登場することで、コミカルな「老鳥の行進」に展開していく。

 舞踏家をこういう形で登場させるのは、一種ステレオタイプともいえる。だが、舞踏は本来、バレエやモダンダンスに対する「アンチ」として登場した。それは身体の「異物」感によって「異化」する要素も強いため、本作では、その対比がとても効果的だ。村松の身体から舞踏に関心を抱く若者もいるかもしれない。

老鳥の行進
村松卓矢
 そして「絶望」のソロは、津田ゆず香と江上万絢のダブルキャストで、筆者が見た14日のマチネは、津田がしっかり個性と身体性を見せた。さらにソロが続く。「故郷を思うふたつの火」では、石川雅実、そして下村由理恵が、それぞれのソロで、踊りの違いを対比させながらもつながり、離れることなどで、見応えのある場面となった。そしてまさに次の「繋がり」では、「プロローグ」の33人に村松が加わった34人の群舞で、村松が時折入るアクセントで、新たなバリエーションを展開する。
絶望
津田ゆず香
絶望
江上万絢
 さらに次の下村の「祈り」はソロとしては一番力の入った部分かもしれない。この作品の中心テーマが、おそらく大きな災害の被害に対する「祈り」が人々を「つなげ」て「再生」を導くということだからだ。そしてその下村のソロと石川の入った34人の群舞の展開する「家路」から、最後の下村の「エピローグ」では、再び太陽の映像が重なって、舞台が終わっていく。