本公演では『ジゼル』全幕に先立ち、平田友子振付『In The Light』が初演された。バレエのパをふんだんに使ったコンテンポラリー・ダンスで、最初のデュエットを踊った土田明日香と染谷野委の、身体能力の高さに裏打ちされた力強い動きが、作品全体に良い流れを作っていた。16人のダンサーのエネルギッシュな踊りと、次々変化するフォーメーションには、心を揺さぶる熱量があった。本作ではキャスト全員が舞台に揃っても、一人一人は小さなスポットライトの中に隔離されているなど、ダンサー同士が触れ合う場面は限定的だ。コロナ禍の影響でこの一年あまり、コミュニケーションの方法は大きく変化した。『In The Light』は社会の変化を作品に取り入れつつも、パンデミックというコンテクストなしでも成立する、見応えのある作品だった。音楽はシューマン『ピアノ協奏曲イ短調 Op.54』。曲そのものの主張が強く、ダンスの醍醐味がドラマチックな音楽にかき消されてしまう瞬間があったのが惜しまれる。振付と拮抗しない別の音楽でも本作を観てみたい。
芳賀望
柴田実樹
軸足をプリエにして回るピルエットが多用された、重心を下に取る『In the Light』と、宙を舞うようにウィリたちが踊る『ジゼル』の同時上映は、その組み合わせにも面白みがある。おもむきの異なる二作を通じて、バレエシャンブルウエストの魅力を存分に味わう公演だった。