バレエ シャンブルウエスト 「ジゼル」全幕
2021.5.22 J:COMホール 八王子

2o2
Ballet Chambreoues
Giselle

周囲をかためるキャラクター・ダンサーにも役者がそろった。

ヒラリオンの正木亮は無骨な森番を熱演し、自分の思い通りにならないジゼルを精神的に追い詰めていく。貴族の角笛を村人が吹くというのは、本来罰せられるような行為なのだろう。狩の隊長に堂々と詫びる仕草には、正木のヒラリオン独特の度胸の良さが感じられた。
クールランド公の逸見智彦は、登場するだけでステージを明るくさせる華がある。公爵らしい押し出しの良さがあり、場を制する圧倒的な存在感があった。

ミルタ:石原朱莉
ズルメ:赤尾さくら
モイナ:石川怜奈
ウィルフリードの宮本祐宜は、通常は目立たない従者の役を、ドラマの展開に欠かせない、重要なキャラクターに昇格させた。頭を上下に揺らして小走りに動く姿には、人間関係の板挟みの辛さが現れている。一幕では貴族と村人の間に、二幕ではあの世とこの世の境界線に立たされ、そのたびに王子を安全な場所に引き戻そうと手を尽くしている様子が、哀愁と共に表現されていた。
ミルタに伊藤可南(マチネは石原朱莉)、ペザントに松村里沙と藤島光太(マチネは村井鼓古蕗と藤島)が出演した。藤島は弾むようなジャンプと深いプリエを使った踊りで、収穫祭の場面を大いに盛り上げた。
柴田実樹&芳賀望
本公演では『ジゼル』全幕に先立ち、平田友子振付『In The Light』が初演された。バレエのパをふんだんに使ったコンテンポラリー・ダンスで、最初のデュエットを踊った土田明日香と染谷野委の、身体能力の高さに裏打ちされた力強い動きが、作品全体に良い流れを作っていた。16人のダンサーのエネルギッシュな踊りと、次々変化するフォーメーションには、心を揺さぶる熱量があった。本作ではキャスト全員が舞台に揃っても、一人一人は小さなスポットライトの中に隔離されているなど、ダンサー同士が触れ合う場面は限定的だ。コロナ禍の影響でこの一年あまり、コミュニケーションの方法は大きく変化した。『In The Light』は社会の変化を作品に取り入れつつも、パンデミックというコンテクストなしでも成立する、見応えのある作品だった。音楽はシューマン『ピアノ協奏曲イ短調 Op.54』。曲そのものの主張が強く、ダンスの醍醐味がドラマチックな音楽にかき消されてしまう瞬間があったのが惜しまれる。振付と拮抗しない別の音楽でも本作を観てみたい。
芳賀望
柴田実樹
軸足をプリエにして回るピルエットが多用された、重心を下に取る『In the Light』と、宙を舞うようにウィリたちが踊る『ジゼル』の同時上映は、その組み合わせにも面白みがある。おもむきの異なる二作を通じて、バレエシャンブルウエストの魅力を存分に味わう公演だった。

2021年5月22日ソワレ J:COMホール八王子

すみだ・ゆう=詩人/舞踊批評家

STAFF
指揮:磯部省吾
管弦楽:大阪交響楽団

振付改訂:今村博明 川口ゆり子
衣裳:大井昌子
照明:成瀬一裕
美術:ヴァチェスラフ・オークネフ
舞台監督:森岡 肇、伴 美代子