バレエ シャンブルウエスト 「ジゼル」全幕
2021.5.22 J:COMホール 八王子

1o2
Ballet Chambreoues
Giselle

ヒラリオン:正木亮
ジゼル:柴田実樹

隅田有のシアターインキュベーター

新型コロナウイルス感染症の拡大で、全国9都道府県に三度目の緊急事態宣言が発令される中、バレエシャンブルウエスト第90回定期公演が開催された。観客数を定員の50%とし、スタッフが観客一人一人に検温を実施するなど、万全の感染対策のもと、バレエ団の代表的なレパートリーである『ジゼル』が上演された。ソワレの様子を報告する。

柴田実樹&アルブレヒト:芳賀望
ロマンティック・バレエの代表作として知られる『ジゼル』は、世界中のカンパニーがレパートリーに取り入れていて、国内でも上演の機会が多いバレエだ。作品の完成度の高さゆえに、いくつかの例外的なプロダクションを除くと、バレエ団ごとの演出に大きな違いは見られない。バレエシャンブルウエストの今村博明・川口ゆり子版も、伝統的な『ジゼル』のフレームを守っている点では他の版と変わらないが、細部まで作り込まれていて、演出の”解像度”が格段に高い。
例えば作品冒頭、前奏曲の途中で幕が開くと、カミテのベンチに村の若者が集まり、花占いで恋人との相性を占っている。無論これはジゼルとアルブレヒトの花占いの場面への伏線だが、幕開きに追加されたシーンのおかげで、花占いの重要性がより強調された。これは本作に馴染みのあるバレエファンだけでなく、初見の観客にとっても、物語の理解を助ける嬉しい演出ではないだろうか。
クールランド公爵:逸見智彦&バティルド姫:深沢祥子
ペザント パ・ド・ドウ 村井鼓古蕗&藤島光太
2幕の王子のヴァリエーションにもひと工夫ある。王子は左右の腕をウィリに掴まれて登場するのだが、ミルタの魔力で踊らされていることが、一層明確になった。こうやって説得力のある演出の数々を書き出すと、それだけで本稿が終わってしまうので、全部紹介することは叶わないが、とまれ斬新な解釈で観客を驚かすといったものでなく、物語を丁寧に掘り下げた演出が、作品全体にバランス良く配されていた。
ベルタ:延本裕子/柴田実樹/正木亮/芳賀望
柴田実樹
直前にキャストの変更があり、柴田実樹と芳賀望がマチネとソワレの2公演で主演を務めた。柴田は川口ゆり子バレエスクール出身のダンサーで、腕も脚もスラリと長く美しい。一幕では結婚への期待と喜びを全身で表す仕草に若々しさが溢れ、二幕ではテクニックで押すキレの良い動きが、冷ややかで美しいウィリという役柄を表していた。アルブレヒトはゲストの芳賀望。『ジゼル』の王子を1日に2公演踊るのは相当に酷なことだろう。演技の面では周囲のダンサーに押され気味だったが、テクニックの見せ場はしっかりと踊りきり、2幕終盤の連続のアントルシャ・シスでは客席から大きな拍手が湧いた。