Dance Square

Yamato City Ballet 2025winter
「西遊記」
2025.1.31大和市文化創造拠点シリウス芸術文化ホール


Photographer's Eye

今回、大和シティバレエが選んだ「西遊記」は原作者がわかっていない作品ですが、日本国内でも手塚治虫作品「悟空の大冒険」(フジテレビ系列 1967年放映)、日本テレビ系列 1978年放映ドラマ『西遊記』、(コンセプトはだいぶ違って)フジテレビ系列「ドラゴンボール」1986年〜現在 と幅広い年代層に支持されている作品です
孫悟空:林田海里
牛魔王:五十嵐ゆうや
      出演順にキャストを紹介します。
 孫悟空:林田海里(はやしだ かいり)
 牛魔王:五十嵐ゆうや (いがらし ゆうや)
 山神の爺さん:小出顕太郎(こいでけんたろう)
 三蔵法師:本島美和(もとじま みわ)
 観世音菩薩:Braulio Alvarez(ブラウリオ アルバレス)
 猪八戒:福田圭吾(ふくだ けいご)
 沙悟浄:小川莉伯(おがわ りく)
 魔王:櫛田祥光 (くしだ よしみつ)
 妻(公主):古尾谷莉奈(ふるおや りな)
 紅孩児(こうがいじ):燦(あき)
 夫人(鉄扇仙女):池ヶ谷奏(いけがや かな) 
 第2夫人(玉面公主):室屋しおり(むろや しおり)
孫悟空(林田海里)は天界で義兄弟の牛魔王(五十嵐ゆうや)と共に暴れ、お釈迦様に追放され五行山(ごぎょうさん)に閉じ込められます。そこで500年世話をしてくれたのが山神の爺さん(小出顕太郎)です。テクニシャンで知られる小出さんですが、この役ではそれを最小限に押し留め、演技力で魅せてくれました。
山神の爺さん:小出顕太郎
三蔵法師:本島美和 & 林田海里
法典を求め天竺へ向かう三蔵法師(本島美和)と出会い、孫悟空は最初の弟子となります。観世音菩薩(Braulio Alvarez)から金箍呪(きんこじゅ)をハメられ、いざという時の呪文も教わりました。本来、三蔵法師は男性なのですが、日本テレビで放映された『西遊記(1978年)』の夏目雅子さん以来、女性が演じることが定番となりました。
猪八戒:福田圭吾
沙悟浄:小川莉伯
高老荘という村で猪八戒(福田圭吾)もお供に加わるのですが、孫悟空に退治されるきっかけは、なんと托鉢でいただいた食料を盗んだことでした。

川越えの時に沙悟浄(小川莉伯)も加わりますが、客席を大河に見立てた演出で、2階席からは観客の動揺が川のウネリのように見えました。

魔王:櫛田祥光 & 魔王の妻:古尾谷莉奈
アンサンブル
萩原ゆうき、細井佑季、朝井美菜満、中村安里、仲程美優、廣瀬麻理花、星野裕菜、堀友香、山口京香、尾崎くるみ、板谷すみれ、飯島大河、大野彩花
とある村で魔王(櫛田祥光)と出会いますが、妻(古尾谷莉奈)はどうやら行方不明で「WANTED(公開捜査)」されている百花国の王女らしいのです。「オペラ座の怪人」のような略奪愛なのでしょうか?
魔王が退治されたのか諭されたのか、妻と別れる時の悲しみは不思議な寂寥感が漂いました。夫婦間の愛情はその夫婦にしかわからないのですね。
観世音菩薩:Braulio Alvarez
林田海里 & 紅孩児:燦
一行が寝ているところへ3人の泥棒が入り込み、孫悟空が懲らしめたのですが、三蔵法師に“過剰防衛”で破門されます。しかたなくふるさとの花果山に戻り小猿たちに大歓迎をうけるのですが、連続パ・デ・シャの可愛らしいこと! ここで1幕の終わりです。

牛魔王:五十嵐ゆうや&第2夫人:室屋しおり
夫人:池ヶ谷奏 
牛魔王と夫人(鉄扇仙女)第2夫人(玉面公主)との掛け合いが見事です。外界ではあんなに強く、“怖いものなし”なのに我が家では“かたなし”、身につまされる男性も多いともいますが、これこそが平和で安泰なのです。
本島美和
紅孩児:燦
「高僧の肉を食べると3千年長生きできる」の噂があり、三蔵法師は妖怪から狙われます。その急先鋒が金角大王(窪田夏朋)と銀角大王(田中杏奈)です。策を弄して孫悟空をぺちゃんこに潰し、3人をさらいます。芭蕉扇というあおぐと凄い炎が燃える扇で火の海に責められる場面はありましたが、金角・銀角が共に紫金紅葫蘆(ひょうたん)に吸い込まれてしまうシーンはないようです。
銀角大王:田中杏奈 & 金角大王:窪田夏朋
牛魔王(五十嵐ゆうや)、夫人(池ヶ谷奏)、第2夫人(室屋しおり)は世間から見ると三角関係なのですが、女性二人が憎しみ合うというよりは奇妙なバランスで成立している不思議! 

でも息子の紅孩児はそんなことは理解できませんので、非行に走り三蔵法師一行を襲うのですが、哀れ悟空に返り討ちにされます。その仇討ちでかつての義兄弟の牛魔王とも相まみえることになるのですが、ラスボスとの戦いに勝利してもなぜか心は晴れません。
池ヶ谷奏 / 五十嵐ゆうや / 室屋しおり
ここで、この「西遊記」のテーマは愛だと気づきました。師弟愛・夫婦愛・兄弟愛・略奪愛など色んな形がありますが、どれもが相手を思っての事。

世界中にナショナリズムの嵐が吹き荒れ「自分さえ良ければいい!」人が多い昨今ですが、憎悪の「炎を消すための芭蕉扇」が欲しいものです。
五十嵐ゆうや / 本島美和
断末魔をあげる牛魔王と必死で祈る三蔵法師
無限地獄へ落とそうと祈祷しているのではなく、哀れな魂を救おうとしていると解釈しました。
ラスト、お釈迦様から法典を渡されましたが、そこでハッピーエンドではなく、プログラムに「旅は続く」となっていますので、手塚治虫作品「悟空の大冒険」のように偽物の天竺だったのでしょうか?

何れにせよ4人が礼を交わし去って行くさまは、それぞれの新たな旅立ちを意味します。特に三蔵法師が客席に向かって深々と頭を下げる演出は秀逸で、観客一人ひとりに感謝し舞台への愛を称えているようにも、また幸福の象徴「天竺」の意味を問いかけているようにも見えました。
演出・振付:竹内春美
カーテンコールで気づきました。孫悟空の金箍呪(きんこじゅ)はすでに額には無く、自由の身になっていたようです。自分を縛り付けていたものを自分で解き放ったのですね。
終演後の記念写真
STAFF

演出・振付:竹内春美
脚本:下畑孝平
バレエミストレス:折井元子、西山裕子
ダンスミストレス:池ヶ谷 奏
舞台舞台:川口眞人(レイヨンヴェール)
美術:岩本三玲
照明:辻井太郎((有)舞台照明 劇光社)
音響:中村蓉子
コンポーザー:小林太郎
ビデオ:japan digital arts
映像制作:林 裕人(オフィスビーフラット)
プロデューサー・演出:佐々木三夏

私の隣の席は7歳ぐらいの男の子。客席に正座して食い入るように舞台を見つめていました。「ドラゴンボール」は好きでも、オリジナルの「西遊記」は知らないようで、開演前にお母さんがストーリーを読んであげていました。
後で知ったのですが、文化庁の『子供舞台芸術鑑賞体験支援事業』で招待されたご家族のようです。奇想天外な冒険物語だけではない何かを感じ取ってくれたと信じています。

写真:大洞博靖 文:鈴木紳司