下村由理恵 バレエ・リサイタル2012

2012.7.11&12 青山円形劇場

1of 3
YURIE SHIMOMURA
BALLET RECITAL 2012

下村由理恵バレエリサイタル2012

伊地知 優子

 妻は日本を代表する国際的バレリーナの一人、かつて美しいプリンス役者だった夫は今や日本を代表する振付家の一人です。この二人が、大バレエ団に所属することなく、独自の公演活動を行ってきたのが「下村由理恵バレエアンサンブル」です。

 結成以来12年目の今年は、成長の大きな一区切りの節目となる年です。はからずも12年間蓄積した 下村由理恵アンサンブルのエッセンスを抽出してみせたような舞台でした。


水の精霊

 まず4作品「水の聖霊(振付・下村由理恵)」「チャーリー(振付・篠原聖一)」「アダージェット(振付・篠原聖一)」「シーズン(振付・篠原聖一)」すべての背景(西田敏行)を引き受けた中央の大きな木の木漏れ日が、明るい真昼の森や、柔らかい季節の優しさなど微妙な時の変化を描き出します(照明・足立恒)。木漏れ日の美しさがどの作品でも素晴らしい効果を上げ、奥深い精神世界をも投影していました。
奥田 花純/金子 優/大長 亜希子/南部 美和/藤平 真梨
 最初の「水の聖霊」は、奥田花純、金子優、大長亜希子、南部美和、藤平真梨、の5人の若手による愛らしくも美しい妖精たちの水辺の戯れでしょうか、聖霊たちが軽やかに舞う静かな昼下がりの森の情景で、さわやかな幕開けの作品です。

Charlie

 篠原聖一自作自演の「チャーリー」は、近年、得意とする作品の一つです。チャップリンのイメージそのままにソロで踊っていた小品ですが、今回はそれを膨らませ、金子優を相手役に軽いドラマに仕立てています。
金子 優&篠原 聖一
 公園のベンチに現れたチャーリーは白い花模様のアロハシャツにカンカン帽という休日スタイル。このほうがいつもの盛装よりも勝負服に見えたりするのがチャーリーのおかしいところですが、良く似合っていてかっこいい所を見せたようにも思えます。若い女性が登場し、何やら困っているところを助けようと奮闘するチャップリンの例の片想いが始まりますが、ドタ靴を履いた篠原チャーリーの軽やかな身のこなしは、まさにチャップリンの軽やかな足捌きを思い起こさせます。失恋して元気のない娘・金子優の素直で無垢な印象は、男がつい守りたくなる女の子です。
 定番の盛装で再登場したチャーリーの奮闘が実を結び、明るい娘になってついにチャーリーを受け入れる金子の輝くような明るさと、報われた男の晴れやかさが、哀れなチャーリーではなく、ハッピーエンドにした篠原版チャーリーを納得させます。チャップリンの「イメージ」を守りつつ篠原チャーリーを生み出す難しい作業を、いい塩梅に収めました。