大和シティバレエ「国を越えて行く物語の旅」
2018.8.10 大和市 芸術文化ホール

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YAMATO CITY BALLET
Sasaki Ballet Academy
Le Spectacle 2018

Ebony Ivory
振付/宝満直也
曲/Philip Glass & Michael Riesman
美術/河内連太
続いて、米沢唯と宝満によるパ・ド・ドゥ『Ebony Ivory』。米沢は前半、白のホルダーネックのドレスで登場し、後半は黒のドレスに着替える。
米沢 唯&宝満直也
舞台前方から米沢にライトを当てて、背景のセットに写った陰と宝満が踊る場面から、距離をつめてより親密な踊りへと続いて行く。エレガントなドレス姿で表れては消える米沢と、リフトの際の肩の使い方に色気がある宝満の踊りは、温度差のある恋愛模様を感じさせる。タイトルはピアノの白鍵と黒鍵を意味しているのだろうか。二人の関係は親密になればなるほど、心地よい良いハーモニーばかりとはゆかない。隣り合わせのキー同士は不協和音を奏でるが、その音の濁りが時に音楽に深みを与えることもあるのだ。

ゆきひめ
原案/井上博文
構成/杉 昌郎
振付/関 直人
曲/ Richard Wagner
バレエミストレス/鶴見未穂子
第三部は、井上博文のアイデアを元に、関直人が振付けた『ゆきひめ』が上演された。『ラ・シルフィード』『ジゼル』『白鳥の湖』『ラ・バヤデール』の「影の王国のシーン」などに代表される"バレエ・ブラン(白のバレエ)”を、和の題材を用いて創られたのが本作。小泉八雲の『雪女』を元に、音楽はワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』より「前奏曲と愛の死」が使われている。1972年の初演時は雪の精を日本舞踊の踊り手が担い、全てのパートをバレエダンサーで上演するようになったのは1983年の改訂版から。本公演では小野絢子と福岡雄大が主演した。
吹雪の音が響き、雪が降る様子をライトが表す。16人のコール・ド・バレエと、『ジゼル』のドゥ・ウィリのような2人の雪の精が登場する。白い打ち掛けで頭を隠した雪の精が、3人、4人と舞台に増えるさまは、目の前の景色が徐々に雪に降り込められてゆく様子を思わせる。吹雪に見舞われた若者のもとにゆきひめが現れる。ゆきひめは若者に惹かれるが、雪の精らはゆきひめの思いに顔を背ける。仲間の精が二人の仲を認めない様子もまた『ジゼル』を連想させた。やがてゆきひめは若者と暮らし始めるが、若者が禁を破り、ゆきひめはカミテ奥に並んだ雪の精の中に消えて行く。
ゆきひめ:小野絢子&若者:福岡雄大
小野は感情を抑えた冷ややかな表情で、黒く長い髪型と真紅の口紅がよく似合う。色が白く儚げな美女という、八雲の原作にある「お雪」にぴったりだった。若者と夫婦になってからは、二人で糸を紡ぐような仕草が挿入され、愛情深い穏やかな暮らしが描かれる。打掛が風や吹雪を表現していたが、丈の長い衣装に出演者は皆少々苦労させられているようだった。斜めのラインや、若者を中心とした円形など、フォーメーションの変化が振付の見せ所の一つ。息の合ったコール・ド・バレエが、恐ろしくも美しい雪景色をつくり上げた。
バレエ団のシーズンオフという、夏の季節ならではの豪華なゲストと、層の厚いSBA出身ダンサーが出演する、見所の多い公演だった。4つの演目はそれぞれに個性が際立ち、五月女の聡明なシェヘラザードや、儚げなファム・ファタルを思わせる米沢など、普段のステージとはまた別の顔が見られたのも興味深い。会場は満席で熱気に包まれた、充実した一夜だった。

2018年8月11日 所見

すみだゆう(詩人/舞踊批評家)

STAFF
芸術監督/佐々木三夏
舞台監督/斉藤尚美
照明/飯田 豊
音響/中村蓉子
映像制作/林 裕人