NBAバレエ団 ショート・ストーリーズ・9
〜バレエ・インクレディブル
2018.6.15〜17 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

2of 2
NBA Ballet Company
Short Stories 9

「海賊」よりパ・ド・トロワ
振付:マリウス・プティパ
作曲:R.ドリゴ他
3月にNBAが『海賊』全幕を新制作したのは記憶に新しい。通常のプロダクションでは二幕だが、NBA版では一幕後半に挿入される主役三人のパ・ド・ドロワが上演された。全幕公演ではギュリナーラを演じた佐藤圭がメドーラを踊り、コンラッドに三船元維、アリに前沢零が出演した。
佐藤 圭、三船元維、前沢 零
宝満直也新作
「11匹わんちゃん」
竹田仁美
新国立劇場で活躍し、昨年末からNBAバレエ団に移籍した、宝満直也の新作は『11匹わんちゃん』。宝満本人を含む11人の男性ダンサーが犬の扮装で、1匹の子猫ちゃん(竹田仁美)を追いかける。
ヴァイオリンが猫の鳴き声を真似るアンダーソンの『ワルツィング・キャット』から一転、ビートの効いたスティーヴ エトウの『早口なイヌ』に音楽が変わると、ワンコたちの独壇場。11匹という”多頭飼い”の数を生かし、客席側だけでなく、舞台上の様々な角度を正面に捉えて、次々とフォーメーションを変えていく。しゃがんでお尻を振ったり、連続で飛び上がったりと、パワーを持て余す元気なワンコたちの動きは、犬と暮らしたことがある人なら、思わずニヤリとさせられる振付だ。「子猫を追いかけるわんちゃん」という動機付けが明確で、男性ダンサーの激しい動きの連続にも必然性があるのが肝だ。追いかけられる子猫は災難なのかと思えば、とぼけた顔で上手に犬たちをかわしてゆく。
新井悠汰、大森康正、 河野崇仁
小林治晃、 清水勇志レイ、高橋 開
高橋真之、土橋冬夢、 飛永嘉尉
宝満直也、安中勝勇
スティーヴ エトウの激しいサウンドは、ともすれば振付を食ってしまうような難しい選曲だが、宝満は見事に使いこなしていた。一人が踊り終わるのを待たず、畳み掛けるように別のダンサーが踊り始める密度の高い構成で、曲の変化を踊りの展開のきっかけに使いつつも、必要以上に迎合しない。本作では群舞の面白みが生きていたが、実は宝満はパ・ド・ドゥ作品も上手いのである。新国立劇場時代に振付家育成プロジェクトで腕を磨き、本年3月にNBAバレエ団が新制作した『海賊』では、全幕作品の振付も経験した。次作の発表が楽しみだ。
ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番」
振付:クラーク・ティベット
作曲:マックス・ブルッフ
アクア:大島淑江、安西健塁
レッド:阪本絵利奈、森田維央
第3部は『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲 第1番』。本公演のラストにふさわしく、元アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のプリンシパル、クラーク・ティベット振付の作品である。4組のプリンシパルはそれぞれ、アクアが大島淑江と安西健塁、レッドが阪本絵里奈と森田維央、ブルーが佐藤圭と三船元維、ピンクが竹田仁美と山田悠貴が務めた。
ブルー:佐藤 圭、 三船元維
ピンク:竹田仁美、山田悠貴
今回は金曜日2回、土曜日、日曜日1回ずつの、合計4公演で、ほとんどの演目がダブルキャストだった。プリンシパルだけでなく、ソリストやアーティストのポジションにあるダンサーにも活躍の場がある、意欲的なプログラムだ。特に男性ダンサーの層の厚さはNBAならでは。久保紘一が芸術監督に就任して以来打ち出してきた、NBAの特色が堪能できる公演だった。

2018年6月15日 19:00所感

すみだ・ゆう=詩人/舞踊批評家

STAFF
芸術監督・演出/久保紘一
ゲストバレエマスター/デビッド・リチャードソン、ダメオン・ナジェル
バレエミストレス/野田美礼
バレエマスター/鈴木正彦、西 優一、榎本晴夫、久保栄治

舞台監督/千葉翔太郎
照明プラン・照明/岩品武顕、山本高久、辻井太郎
音響プラン・音響/相馬保之