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〈演出・振付〉平山素子 |
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バレエとコンテンポラリーダンス
ロックバレエ、という冠で公演。前回はクイーンの音楽でやったそうだ。ロックとバレエ、合うのかどうかという微かな疑問を抱きつつ、会場に赴いた。大田区民プラザ大ホールは、初めて行った会場。東急多摩川線下丸子駅の目の前で、踏切はあるが、傘がなくてもいい距離だ。区民プラザといっても500人以上収容のしっかりしたホールで、傾斜は緩いが見るのに支障はない。 タイトルのとおり、紫式部の『源氏物語』に想を得た作品で、平山素子が振付、演出、出演もする。平山素子といえば、90年代、コンテンポラリーダンス初期に活躍したグループ、H・アール・カオスのメンバーで、筑波大学で学び、現在准教授。柔軟な身体とダイナミックな動きのダンサーとして、さらに振付家として、新国立劇場などを中心に活躍している。 |
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コンテンポラリーダンサーがバレエを振り付けるというと、危惧する人もいるだろう。だが、日本のバレエダンサーが振り付けると、定型から抜けられず、バレエのテクニックにモダンダンスが混ざったような、古さを感じさせる作品になることが多いように思う。その意味でも、コンテンポラリーダンサーの振付のほうが、作品の幅が広がり、斬新な作品の生まれる可能性がある。
ちなみに、コンテンポラリーダンスといっても、バレエベースとそうでないものと大きく分けて二つあるといえる。ウィリアム・フォーサイスやイリ・キリヤンなどは前者で、ピナ・バウシュ以降、ヌーヴェル・ダンスの影響などから多く生まれた現在の日本のコンテンポラリーダンスは後者といえる。そして、日本のコンテンポラリーダンサーたちは、それぞれ新たな振付を模索して、優れた作品を生んできた。 |
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光源氏:今井智也 頭中将:池本祥真 紫の上:奥田花純 六条御息所:伝田陽美 惟光:伊坂文月 明石の君:平山素子 |
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ハイレベルな出演者
まず、メインの光源氏は今井智也。谷桃子バレエ団のプリンシパルとして活躍中で、中央を張るにはもってこいの人材だ。古典バレエでも『ジゼル』のアルブレヒト、『ロミオとジュリエット』のロミオなど主役を演じている。 |
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Kバレエトウキョウのゲスト・アーティストの伊坂文月が惟光(これみつ)。伊坂は、香港バレエ団、カナダのバレエ・ヨーガンのプリンシパルなど活躍後、Kバレエに入団。夫人の元宝塚歌劇団城咲あいとともにスタジオを持ち、活動している。がっしりしたバレエダンサーで、ヒゲの姿とともに、個性が立つ。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
さらに、東京シティ・バレエ団プリンシパルの吉留諒が蛍宮(ほたるのみや)と末摘花(すえつむはな)。つまり、吉留は、男女二人を演じている。吉留は、東京シティ・バレエの今後を担うバレエダンサーだ。 そして女性陣は、平山素子が明石の君、新国立劇場バレエ団ソリストの奥田花純が紫の上、東京バレエ団ファーストソリストの伝田陽美(でんだ・あきみ)が六条御息所(ろくじょうみやすどころ)を演じる。 奥田花純は、篠原聖一、下村由理恵に師事し、新国立劇場バレエ団では『パゴダの王子』のさくら姫、『ホフマン物語』のオリンピアなど主役を演じてきた。 伝田陽美は、東京バレエ団で『白鳥の湖』のスペイン、『くるみ割り人形』のロシア、『ラ・バヤデール』のガムザッティなど、個性的な役を演じ、ベジャール、ノイマイヤー、マッツ・エック、フォーサイスなど、コンテンポラリーバレエ作品も踊ってきたバレエダンサー。 |
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源氏物語
源氏物語といっても、全54帖、さまざまな物語がある。 |
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紫の上は、光源氏の憧れの藤壺の姪で、二番目の妻。 一番有名なのは、六条御息所の怨念だろうか。源氏の若いころの年上の愛人で、その後、生霊として源氏の愛人たちや妻たちを悩ませる。 さらに末摘花は、親友の頭中将と争って光源氏が手に入れると、地味な存在だったが、生涯、光源氏と関わり続ける。 だが、舞台を見ていてそれぞれが演じている役の内容や、物語がはっきりわかるわけではない。たぶん見ている多くの観客も、それぞれの知る源氏物語を念頭に、踊り自体を楽しんでいたのだろう。 |
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ピンクフロイド・バレエ
ロックバレエと聞いて、『ピンクフロイド・バレエ』を思い出した。1972年、フランスの振付家、ローラン・プティ(1924〜2011年)がプログレッシヴ・ロックのピンクフロイドの音楽とともに振り付けた作品だ。当時、プティは自分の若い娘から作品づくりを勧められたという。 |
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この公演では、特に出演していた辻本智彦が目を引いた。彼は、金森穣のNoism初期のダンサーとして活躍、さらにシルク・ド・ソレイユを経て、最近では米津玄師の振付や、菅原小春とともに『パプリカ』を振り付けるなど活躍している。 周知のように、ピンクフロイドの音楽は、イタリアの巨匠、ミケランジェロ・アントニオーニの映画『砂丘』(1970年)でも使われ、瞑想的ともいえる静かで緩やかな部分が多く、激しい「ロック」とは異なり、舞踊にも合う部分も多い。だが、リズムの強いロックはどうかと思ったが、今回、その危惧は吹き飛ばされた。 |
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目眩く時間
一群となった集団での登場から、ロック的リズム、そして縦に何枚にも分かれたカーテン状の舞台美術がダンサーたちの存在感を押し出した。この一群からの踊りの展開は、以前にも平山の振付で見覚えがあるが、人間のパワーを感じさせるという点で意味があるだろう。そして、衣装を含めて「現代」を感じさせるのが、平山の振付の特徴といえるかもしれない。 |
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そこからソロ、デュオ、さらに多い群舞などが展開するのだが、スピード感とテンションが高く、エキサイティング、という一言が相応しい。バレエに基づいたハイテクニックが次々と展開されるため、一つひとつを理解・分析する暇を与えられず、眼を奪われ続ける。それぞれの跳躍、回転、リフトや組み合わさったフォルムのいずれも美しい。 照明の変化によって、時に鏡のように反射し、時に透けて見えるカーテン状の舞台美術で、空間をこちらと向こうで分けて、ゆるやかな場面、六条御息所の怨念、日本古典を感じさせる場面など、さまざまに展開する。上に白をまとって、女性3人に、吉留の末摘花が加わり4人で踊る場面は、和や優美さも感じさせ、メタリックに光る衣装の場面とは対照的、効果的だった。 |
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新たなロックバレエの誕生
音楽は、作曲家、笠松泰洋が、ロックと和を見事に融合させた。ロックの曲としては、有名なジェフ・ベックの「Hammerhead」、スイスのロックバンド、ゴットハードの「Letter To A Friend」が使われ、そしてバッハの無伴奏チェロソナタのフレーズが所々に顔を出す。それ以外は、笠松泰洋のオリジナル。バッハも彼のアレンジした曲になっている。笠松はダンサーとの活動も多く、ダンスをだれよりも理解している作曲家といえるだろう。 |
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使用された楽曲をここに示しておく。
1.「うつろい」 |
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今回の公演では、平山素子の見事な振付に若いテクニシャンたちが、そのバレエ技術を十分に生かし、笠松泰洋の音楽が、ロックと和をしっかり結びつけたことで、これまでにない、新たな「ロックバレエ」を生み出した。音楽やリズムとともにノリもよく、あっという間の70分。 こういうバレエだったら、初めてバレエを見る若い人でも引き込まれる。そして、我々を含めた70歳前後のシニア世代も、実はロック世代なので、それまでバレエに関心がなかったシニアも惹きつけることが十分考えられる。 |
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この『GENJI』は各地で再演可能な演目といえるだろう。さらに『平家物語』、『万葉集』や和歌の世界、漱石、芥川などの日本近代文学も題材にしたら、面白い作品ができるのではないだろうか。 また、『ピンクフロイド・バレエ』は、当時、生演奏による上演もあったという。この『GENJI』も、一部でも生演奏を交えた上演も見たいと思う。 今後、さらなる「ロックバレエ」の展開に期待したい。 2024.9.14 大田区民プラザ大ホール所見 舞踊批評家 しが のぶお |
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