バレエ シャンブルウエスト 「白鳥の湖」

2008.6.21 ゆうぽうとホール


1of 2

Ballet Chanbre Oues
「Swan Lake」


シャンブルウエスト「白鳥の湖」

伊地知優子

 バレエ シャンブルウエストの「白鳥の湖」は、その初演(1981)以来度々上演してきたバレエ団の得意の演目の一つです。

 プティパ/イワノワ版をもとに、世界中で様々な演出がなされてきましたが、最も優れた演出の一つであるテリー・ウエストモーランド版を上演してきた牧阿佐美バレヱ団で長年主役を務めた今村博明、川口ゆり子夫妻の演出は、そのウエストモーランド版の香りを残しつつ、シャンブル独自の処理を施しています。

 白いバレエでは群舞の出来映えが非常に大きな意味を持ちます。群舞は見た目に美しいだけではなく、物語の背景やその場の状況、空気、そして来るべきことの予感なども語ってくれますから、ただ隊列をきれいに見せるだけで何も語らない群舞では、物語の密度も奥行きも生まれません。今村/川口版の魅力の一つに、身の丈に合ったうまい群舞の処理があります。ダンサーの人数、技量、個性に気を配った群舞の振付けは、白鳥たち(実は娘たち)の若さや主人公の心情を暗示して、刻々と変化します。2幕と終幕の白い群れの振付、そして3幕のめりはりの利いた構成で、贅肉がきれいに取れた美しい体型を見るような仕上がりになりました。
横関雄一郎
パ・ド・トロワ:大田 恵、田中麻衣子、横関雄一郎
家庭教師ヴォルフガング:岡田幸治
王子ジークフリート:山本帆介
 オデット/オディールの吉本真由美はバレエ団創設当初からの団員で、レパートリーのほとんどすべての主役を踊ってきた生え抜きの代表格です。年齢的には最も充実した時期に入っていますから、総体に安定していますし、上体の動きが随分なめらかになってきました。

 2幕のアダージオでは感情表現がやや押さえ気味で、抑制のきいた性格のお姫さまです。この表現は終幕までほぼぶれがありません。オディールはこの人の明るさと愛らしい美貌が生きて小悪魔的な魅力が出ました。もう少し色気や凄みが出るとおもしろいでしょう。

悪魔ロットバルト:佐藤崇有貴
オデット:吉本真由美
山本帆介
 王子にはサンフランシスコバレエ団ソリストの山本帆介が里帰り公演です。やや小柄な吉本真由美を相手に余裕の背丈で、やがて王になる男の重みを感じさせます。
山本帆介&吉本真由美
 1幕の「寡黙」な王子が、3幕でようやく意中の人を得て幸福感を味わったのも束の間、失意のどん底へ、という過程で、最もこの人の得意技を発揮したのが3幕、愛を得た喜びを大きな跳躍と回転で表現した場面です。劇中の山場で一番高まるのがプロらしい見せ方ですが、そこで王子の性格も生活もいっぺんに見せる事ができます。人間ですからどんな性格も有りなのですが、惜しむらくは、若者らしい溌剌とした輝きがどこかでキラリ光る瞬間が欲しかったことです。「パ」と「パ」(バレエの身体言語、語彙)を繋ぐ瞬間に目線を下方に落とすのは癖でしょうか?目線を少しあげるだけで若い人になります。
4羽の白鳥:大田 恵、染谷夢来、足立朋子、米村ひかる
3羽の白鳥:深沢祥子、楠田智沙、山田恵梨子
オデット:吉本真由美