DANCE for Life 2023
篠原聖一 バレエ・リサイタル
2023.8.27 東京芸術劇場 プレイハウス

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DANCE for Life 2023


「クリスタル」

奥田花純 奥村康祐 吉本真由美

吉田悠樹彦の
Driving into Eternity

篠原聖一バレエ・リサイタルではこれまでの代表作と新作が上演された。特に豪華なキャストと新作に注目が集まったが、篠原の活動を回顧させるような公演でもあった。

「クリスタル」(1995年)は1人の男性ダンサーと幻想的なチュチュをまとった女たちによるシンフォニックバレエである。音楽を視覚化するバレエの表現が見事だ。肉体たちは音符のように粒子のように情景を盛り上げる。初演の90年代という時代を感じさせる。人気の奥村康祐と吉本真由美が海外での活躍を経た北村真理子らと舞台を彩った。次第に流れが立ち上がり、やがて男性ダンサーがリードしていく展開が印象的である。
吉本真由美 奥田花純 奥村康祐
北村真理子 澤田知里 渡辺 幸 小野麗花 吉田まい 大長亜希子 渡辺麻友 土佐林理子 松尾詩織
井上暖深 伊藤 舞 中平羽南 堤 彩衣 宮川智羽 オーム・ソフィア

浅田良和   荒井英之   檜山和久

「Leave it to the flow.」

檜山和久
浅田良和
「Leave it to the flow」(2022年)では浅田良和・荒井英之・檜山和久がそれぞれ体からムーヴメントを空間へ展開していく。肉体が立ち上げる非日常的な詩学とその瞬間に立ち上がるドラマを演出を通じて盛り上げる。篠原が優れた物語バレエの作り手であり、近作の発想の原風も分かる。
荒井英之

澤田知里 渡辺 幸 小野麗花 吉田まい 渡辺麻友 土佐林理子 松尾詩織
井上暖深 伊藤 舞 中平羽南 堤 彩衣 宮川智羽 オーム・ソフィア


「Charlie」

「Charlie」(初演)は篠原が何度も取り組んでいるシリーズ物である。チャップリンの人生をテーマにしている。チャップリンの自伝には喜劇王の貧しい生い立ちや苦難の日々が描かれている。ニジンスキーとの出会いも登場することも知られている。
マダム : 大長亜希子  カフェ 女主人 : 金子 優   紳士 : 藤島光太
亭主(篠原)と女主人(金子優)による開店前のカフェの場面からはじまる。これがチャップリンを寓意的に描いているのだが、charlieというキャラクターたちがこのアーティストのメディアの上での表現を象徴するように情景を盛り上げていく。やがて青い服の客夫妻(マダム 大長亜希子、紳士 藤島光太)と絡み合い、男たちは酒を飲みあい女を巡って争い始め、やがてボクシングになだれ込む。

この4人の感情のやりとりや感情表現が巧い。飲酒やボクシングの場面はチャップリン映画にも登場する。映画で知られる名場面を篠原は異なるバレエの間合いや舞台構成からアレンジしている。音楽では映画「モダンタイムス」で知られた「スマイル」なども演出に登場する。コロナの現代と重ねているのか、悲哀や理不尽が芸術家の発想の原点となっていることが伝わってくる。

篠原聖一&大長亜希子
チャップリンは日本チャップリン協会が存在するぐらい人気がある。「小説ライムライト」(チャールズ・チャップリン/ディヴィッド・ロビンソン著、大野裕之監修、上岡伸雄/南條竹則訳、集英社、2017年)にはバレエへの関心が登場する。チャップリンはバレエにインスピレーションを感じていたことがあり、バレエ団を舞台とした映画の為に素材を探していた時期がある。この名優の中にある道化師やバレエといったテーマが篠原の中で1つのテーマとして結びつき作品の主題として持ってくることは至極当然といえる


「Les Saison」

藤島光太
浅田良和 &吉本真由美
「Les Saisons」(2012年)は樹木の下の季節と人々の歩みが繰り広げられる。初演の時はいわゆる植物のような舞台美術が用いられているが、今回は紐状の素材で抽象的な美術(河内連太)を用いており、温暖化でどうしても自然環境を意識したり環境問題を意識せざるえない東京の観客には訴えかけるものもある。新国立劇場バレエ団でプリンシパルとして活躍する小野絢子が活躍をみせた。清らかな小野の表現は立派に芸を大成させつつある姿を示していた。奥田花純も充実した近況をみせていた。
檜山和久&奥田花純
奥田花純  北村真理子 小野絢子  吉本真由美
奥村康祐&北村真理子
浅田良和 &小野絢子
全作品を通じて照明(足立恒)が効果を発揮した作品が多かったといえる。いずれも作品からは10年代は大作を発表することが多かった篠原の創作の源流とそのエッセンスを垣間見ることができる。バレエの表現の原則を重視しながらポピュラーな物語や主題からドラマティックバレエを構成している。コロナ4年目の夏のこのリサイタルにはバレエ系を中心としたお客さんが集まった。不景気の中でリピーターを中心に熱心に公演に通う首都圏のバレエ界を盛り上げる内容である。

2023.8.27 東京芸術劇場プレイハウス所見

舞踊批評家:吉田悠樹彦

STAFF
照明:足立 恒
美術:河内連太
音響:中村蓉子
舞台監督:堀尾由紀 森岡 肇

振付・演出:篠原聖一
演出補佐・バレエミストレス:下村由理恵
リハーサルアシスタント:金子 優 大長亜希子 小野麗花
主催:DANCE for Life 実行委員会