志村バレエ 第10回公演「ジゼル」全2幕
2019.10.20 
朝霞市民会館(ゆめぱれす)

2of 2
Simura Ballet
Giselle

第2幕にもウィリたちの動きなど、いろいろとドラマを深める工夫があります。
 さらに、実は、これが山本演出の最大の特徴だと思うのですが、森番ヒラリオンの扱い、あるいはヒラリオンと母親ベルタとの関係の描き方です。
 まず、冒頭、ヒラリオンがベルタに狩りの獲物をプレゼントし、水汲みのバケツをもってあげる、ここまではよくあるのですが、その後2人は手を組んで出かけます。ジゼルの死の場面でも、彼はベルタを深く慰め、さらに第2幕の初めに2人は一緒にジゼルの墓参りに来るのです(もう1人若者がついてきていますが)。そして空気が妖しくなると、ヒラリオンは若者とベルタを帰します。ベルタ、ジゼルの母親ですが、ジゼルはまだ十代、母親も三十代もあり得る。この日の志村有子さんもとても若々しい。ベルタは老婆ではないのです。ヒラリオンも決して少年ではありません。むしろ経験深い森番、とするとベルタとの関係を考えてもよい。つまりジゼルに対しては父親の気持ちで、アルブレヒトから守るというのもありえないことではない。もちろん、山本演出はこうではないのですが2人はとても親密、実は私は時々こんなことも考えているのです。
ミルタ:池田瑞希
 さて、この日のキャスト・ジゼルは久保茉莉花さん、昨年の『シンデレラ』では春の精でしたから抜擢。小柄ですが、ソフトで可憐な雰囲気、頑張って役を演じ、死の場面、第2幕の必死の演技にその効果が感じられました。動きでも全体としてはきちんと踊りました。ただ、表現に気を使ったせいか、一部細かい部分に神経が届かない面もみえましたが、足の指が使えているので、このままいけばそれも克服されるでしょう。

 アルブレヒトは浅井敬行さん、ダンスール・ノーブルスタイルで、よく大役をこなしました。名古屋の松岡伶子バレエ団によく出演していますが、時々ポウズやちょっとした動きにそこの碓氷悠太さんを想起させるところがありました。心がもう少し明確におもてに現れるようになると、さらにドラマの軸としての力が増すでしょう。
モイナ:澤田幸恵
ズルマ:澤田美知恵
久保茉莉花&浅井敬行
 ヒラリオンの京當侑一籠さん、母親ベルタの志村有子さんはそれぞれ上記した役目をしっかり果たし、京當さんは第2幕で現役ダンサーとしての力も示しました。従者ウィルフリードはなんと菊地研さん。敢えて控え目ながら、クールランド公やバチルド一行、すなわちクールランド公の志村昌宏さん、貴族たちの柴田英悟さん、塚田渉さん、バチルドの熱演、小澤絵美さんなどとの場面では、堂々と存在感を示していました。貴族たちはジゼルの死の場でも舞台に緊張感を与えています。

 踊りの面では第1幕、ペザントの岡本琴瀬さん、坂爪智来さん、堅実、ていねいな坂爪さんと、岡本さんも若々しく、そしてうまくまとめました。阿部文香さんらのパ・ド・シス、多くの村人たちも健闘。

京當侑一籠
浅井敬行/久保茉莉花/池田瑞希
 第2幕では、強い表現のウィリの女王ミルタの池田瑞希さんに率いられ、澤田美知恵さん、澤田幸恵さんはじめウィリたちも、しっかりヒラリオンやアルブレヒトを追い詰め、またバレエ・ブランとしてもよく頑張りました。 

 花を巧みに使ったフィナーレまで、全体としてとても細かいところにまで気を使った演出、そして演技でした。スタジオのメンバーも年々成長しているようにみえます。
浅井敬行&久保茉莉花
 最後に、一つあえてこの演出で考えてみたいのは、ウィリたちの心情について。人間を踊りで死まで追い詰めることに徹するように定められているのか、そこに人間らしさが残っているのか。具体的には、アルブレヒトを踊らせているとき、明け方の鐘が鳴り地下に戻るのですが、彼を死に至らせなかったのが残念だったのか、あるいはほっとしたのか。この点はこの作品の性格を決める大きな要素のような気がするのです、どうでしょうか。

19.10.20 朝霞市民会館所見

舞踊批評家 うらわ まこと


STAFF
原振付/ジュベール・ペロー、マリウス・プティパ
改訂・再振付/山本康介
作曲/アドルフ・アダン
舞台監督/安藤純一
照明/飯田 豊
音響/矢野幸正
舞台美術/(株)東宝舞台