志村バレエ 第10回公演「ジゼル」全2幕
2019.10.20 
朝霞市民会館(ゆめぱれす)

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Simura Ballet
Giselle

ベルタ:志村有子&森番ヒラリオン:京當侑一籠
ロイス:浅井敬行&ジゼル:久保茉莉花

志村昌宏・有子バレエスタジオが主催する
志村バレエ第10回公演『ジゼル全幕』

うらわ まこと
 志村昌宏さんは、小林紀子バレエシアター出身。独立後もダンスール・ノーブルとして多くの作品に主演してきました。パートナーの有子さんと2000年にスタジオを設立。2007年に第1回公演を開き、今回が第10回、このような個人のスタジオで生徒の発表会と公演をきちんと分けて行っているのはまれなこと。それだけ多くの人材を育てているということでしょう。昌宏さん自身も振付をしていますが、このところ外部に演出・振付を依頼することが多く、とくに山本康介さん演出・振付による古典・スタンダード作品の上演が多くなっています。そして昌宏さん、有子さんは作品の演技面で重要な役で出演、若い出演者をリードし、舞台を締めています。

 山本康介さんはロイヤルバレエ学校からバーミンガム・ロイヤルバレエ団で主要な役を踊り、帰国後あちこちで作品を発表しています。特に昨年ここで発表した『シンデレラ』は、父親に焦点を当てたドラマ作りで見事な成果をあげました。またNHKTVでのローザンヌ国際バレエコンクールの解説はなかなか鋭いものです。

久保茉莉花&浅井敬行
 さて今回の『ジゼル』。ハイネの詩にもとづくロマンティック・バレエの最高峰といわれる名作です。ロマンティック・バレエとは、見た目ではロマンティック・チュチュといわれる女性の長いスカートが特徴ですが、クラシックバレエほど形式に囚われず、自由に物語を進めるバレエ・ダクションといわれるスタイルです。ただ、1841年のジュール・ベロー/ジャン・コラリの原振付を、1884年以降クラシック・バレエの帝王といわれるマリウス・プティパが形式を整理し、20世紀に入ってさらに踊りが付け加えられています。しかし、現在でもその本質は、第1幕が人間社会の、そして第2幕は妖精と人間の交接するロマンティックな悲劇のドラマである点は変わりません。主題が明確なアドルフ・アダンの音楽も、大いにこの助けとなっています。
 山本康介さんの演出は、舞台空間の関係などからか多少出演者は少ないところもありますが、物語や構成はスタンダードと変わりません。英国で経験を積んだためか、ロシア系の工夫がみられます。その1つは、舞台全体に芝居の目配りをしていること。例えば、アルブレヒトの婚約者バチルドがジゼルに愛する人はいるのと訊き、ジゼルが結婚しようと思っている人がいると答えると、その後、脇で母親ベルタがジゼルにまだ決まったわけではないでしょうとたしなめる、といった風に。舞台に上がっている人すべてが、どこにいようとも「物語の当事者、関係者」という意識はとても大切なこと。
クーランド公爵:志村昌宏&バチルド:小澤絵美
京當侑一籠
ペザント・パ・ド・ドゥ:岡本琴瀬&坂爪智来
 もう1つの納得は、ペザント・パ・ド・ドゥ(ここにも友人たちの踊りを加えるなどの工夫あり)の後の全員のコーダ。後半にアルブレヒト、そしてジゼルが踊りに加わり、最後のセンターでのポーズになること。そこにヒラリオンが割って入り、その後の悲劇に続くのです。なぜこんな当たり前のことをいうかというと、他のほとんどの演出では、このコーダの間2人は舞台から消え、最後になると突如しゃしゃり出てきてセンターにおさまる、とても不自然なのです。
小澤絵美&浅井敬行
久保茉莉花