DANCE for Life 2019
篠原聖一バレエ・リサイタル
2019.6.7 練馬文化センター 小ホール

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DANCE for Life 2019


Le Soir 夜(初演)
音楽/セルゲイ・ラフマニノフ
今井智也&下村由理恵
続いての『Le Soie(夜)』は、今回が初演。舞台奥に立つ男性(今井智也)がマントを揺らしている。一瞬のプロローグの後の舞台は、社交界の舞踏会か。紳士然とした男性は一人の美しい女性(下村)と出会い、惹かれ合う。音楽はラフマニノフ。シーンは移り、女性は一人、部屋に戻る。そこに先ほどの男性が訪れ、女性を優しく抱擁する。そして頸への情熱的なキッス。すると女性は倒れてしまう。
やがて女性は蘇る。が、そこには、以前の清純さはなく、悪魔的な魅力を湛えている。男性はバンパイア-吸血鬼だったのだ。下村と今井のデュエットが美しい。二人とも動きに全く隙がなく、どの瞬間も絵になりうる。下村を抱き上げ、そのまま回転する今井。その動きの流れも滑らかだ。下村は、音楽をさらにドラマティックに響かせる。血を吸われたあと、彼女自身が吸血鬼として生まれ変わったであろうことは、彼女の目の力、そして全身の表情で見て取れた。

だからこそ、血を吸う直前に、今井が白い牙を装着する必要はなかったのではあるまいか。幻想美の中での恐ろしいドラマだっただけに、そこのリアルさがそぐわなかった。もちろんドラマをより分かりやすくしたことは確かであり、それは篠原のサービス精神の表れだったのかもしれないが。