札幌文化芸術劇場 hitaru オープニングシリーズ
札幌舞踊会
創立70周年記念公演バレエ 「カルミナ・ブラーナ」
2018.12.15 札幌文化芸術劇場 hitaru

2of 3
SAPPORO BUYOUKAI
CARMINA BURANA

林 香織
郷 翠/林 香織/神島 百合香
 では、今回なぜ札幌舞踊会(千田雅子)は、芸術祭大賞まで受けた作品を改訂したのでしょうか。これはとくに明らかにされていませんが、20年前の作品を見直すということのなかに、舞台を見た限りではとくに2つのポイントがあったように思います。

 この作品は、もともと、白を基調にした菱沼良樹の衣裳デザイン、多くのダンサーによる、自由な動きによる、極めて現代的なテイストの作品でした。

 そこで今回変わったのは、1つは空間構成、新しい劇場の大きな空間を前提にした鈴木俊朗・佐藤みどりの美術です。舞台の奥から中央までの傾斜、そしてそれを取り巻く左右、上方を覆い、全体が白く渦をまいているように見える装置。これは最初からの白を基調にグレー、黒を交えたスタイリッシュな衣裳とも見事にシンクロしています。
鈴木伽実&西野隼人
藤岡綾子&西野隼人
もう一つは、出演者のための場の改訂。ここの出身で大きな貢献をしてきた坂本登喜彦を、最初にセンター奥から男性を率いて、フィナーレは彼一人で、人間たちの営為を見守る運命の神の役で登場させ、強い印象を与えました。ダンサーとしては現役を超えた坂本に対する振付者のこだわりが見事に効果をあげたのです。

 さらに高岸直樹、髙比良洋、浅田良和らの新顔ゲストに、ここの出身の西野隼人、藤岡綾子らの豪華な顔触れ、さらに酒匂麗、奥山健恵ら多くの男性たち。ここのダンサーも、各所に強い存在感を示す郷翆、衰えぬみずみずしさを保つ林香織、進境を示す梶原千佳、新鋭鈴木伽実などに、重要な役割を果たす男女の児童まで、総勢70名に近い出演者。個性的な衣裳の彼らが、25曲、その間に間奏的に加えた自然の畏敬を示す効果音まで、高岸、髙比良の存在感と表現、浅田と西野の激しい動きを核に、適宜女性たちがからみ、さまざまな人間の営為、心情を、主体はバレエシューズで自由に、時にポアントできちんと描きだしました。

奥山健恵
 2,300席、満員の観客も、クラシックとは異なる現代的で自由な隊型と動きのスタイル、そして迫力と優しさに満ちた舞台に圧倒されたのではないでしょうか。

追記しますと、翌日のNHK-TVで、10月にNHKホールで行われたパーヴォ・ヤルヴィ指揮のNHK交響楽団による『カルミナ・ブラーナ』が放映されました。滅多にやらないこの作品の偶然の接近には、何かの縁を感じざるをえません。

2018年12月15日札幌文化芸術劇場所見 

舞踊批評家 うらわ・まこと

髙比良 洋/高岸直樹/鈴木伽実