六本木 金魚 25周年記念ショー「TOWA」
2020.3.8 シアターレストラン 六本木 金魚

2o2
A New Translation
Of Roppongi Kingyo
「TOWA」

演出家、谷本捷三

 この舞台をつくったのが、伝説的な演出家でオーナーだった谷本捷三(しょうぞう)である。

 谷本は80年代のディスコ全盛時代に、六本木のスクエアビルで10軒、全体では数十軒ディスコを経営していたといわれ、有名な高級クラブ、コルドンブルーなどの経営者でもあった。谷本の姉の池口麗子も、カンタベリーハウスチェーンなどを経営し、夜の女王といわれた。漫画にもなった、花登筺(はなと・こばこ)の小説『銭牝』のモデルである。

谷本は姉の勧めでこの業界に入ったが、谷本自身も「六本木の帝王」とも呼ばれた。テレビの「ザ・ノンフィクション」で特集番組がつくられ際には、2011年12月、撮影中に谷本が逝去したので、放映時には、タイトルが『「六本木の帝王」がいない冬』となった。六本木・金魚のショーは「NEO歌舞伎」と称しているが、20年前の1999年に、NHKでも谷本の少年時代からを扱ったドキュメンタリー『金魚KABUKI』が放映され、エミー賞にもノミネートされたという。
 また当初から振り付けていたのは、ロッキーこと山田仁という人物だ。山田は名門の湘南高校サッカー部を経て東京教育大学(現・筑波大学)出身。この金魚や新宿の同系列のショークラブ、黒鳥の湖で斬新な振付を行った。約40年前に、六本木にあったゲイ・ショーパブのシュガーボーイでマスターをつとめていたとき、弟子の小ロッキーといわれた男が、「コロッキー」からあの「コロッケ」になったという。
装置とダンス

 舞台、ショーに戻ろう。舞台の手前側に床から80センチほどの壁が立ち上がり、「何か隠れているのか?」と思ったら、上から雨が降ってきた。奥行き10センチほどの中に、舞台上から降ってくる雨が吸い込まれていく。そのため、その小さい壁が閉じると舞台は濡れていないという、水を使った巧みに設計された舞台装置だ。

 このように上下左右、移動から階段、斜面、平面といった変化が四層で目まぐるしく生じるのだ。これでは操作する人も大変だろうと訊ねると、開業当初からのベテランが動かしているという。そして装置をフルに操作するには数人必要なようだ。この仕掛け自体が凄く、たぶん同様のものは日本にもおそらく世界にもないのではないか。
 肝心のダンスも本当におもしろい。ニューハーフもその差がわからないくらい、見事に踊っているのは、振付の力もあるだろうが、出演者たちの強いエネルギーゆえだろう。実際、舞台の裏では三階分、絶えず上がったり下がったりを繰り返しているという。そして、目まぐるしく変化し続ける装置で、一歩間違えば転落や大けがの可能性のなか、ハイヒールなどで巧みに踊り続ける。一度、この凄いステージを見てしまうと、正直なところ、通常のジャズダンスやエンターテイメントダンスは物足りなく感じられるかもしれない。
 先日、映画『フラガール』で有名な福島のハワイアンセンターのダンサーの情熱を、民放のドキュメンタリー「セブンルール」で取り上げていたが、それを思い出した。この「金魚」を見たことで、1つの小屋、舞台で踊り続け、技術を極めていくショーダンスの世界にも、圧倒的な感動を呼ぶものがあると思い知らされた。そして彼らは、ジャズダンス、ショーダンスの定番からアクション、セクシーダンス、沖縄舞踊やフラメンコ、宙乗りはもちろん、上からの細長い布で空中演舞する、最新のエアリアル・ダンスまで、観客の目を見張らせる。

 音楽もビートルズ『カムトゥギャラザー』からシュープリームス、70年代ロック、アニメ音楽、そして最近のビリー・アイリッシュ『バッドガイ』まで数十曲が見事にコラージュされて、楽しめる。そして、歌舞伎や江戸風俗、忍者からアニメ、フラメンコ、現代までさまざまな踊りとモチーフだが、そこに太平洋戦争が登場する。

戦争、アングラ、舞踏

 三線(さんしん)の生演奏を含む沖縄舞踊がいつしか沖縄戦の場面となり、そして特攻隊と戦争に翻弄される若い男女、そして進駐軍などが登場する。エンターテイメントショーにはちょっと重いテーマであり、米軍兵士も集まる六本木で敢えてそれを入れたことには、オーナーで演出家の谷本捷三や、振付師のロッキーこと山田仁のこだわりがあったのだろう。

 また、以前は、唐十郎や寺山修司のようなアングラっぽい雰囲気のものもあったらしい。そして、唐の状況劇場のような舞台崩しとして、ラストはホリゾントを開け、裏の墓地が広がる!という演出もあったという。当時のタイトルも『艶色エレジー』や『はなれ瞽女おりん』など、ノスタルジックな匂いが漂う。

 実はその墓地の向こう、一本先の道の桃源社ビルには、かつて、舞踏家、土方巽が経営していたショークラブ「将軍」「金太郎」があった。そのほかにも赤坂にキャラメル、銀座などに土方は多くのショークラブを経営し、弟子の舞踏家たちが関わっていた。土方は1986年に亡くなったが、その後もいくつかのクラブは残り、2000年代まで稼働していた。この「金魚」は1994年創業だから、重なっている時代もあり、当然、谷本も土方と将軍のことは知っていただろう。

 前衛芸術として現在世界的に広がっている舞踏だが、同性愛のモチーフも当初からあった。そして土方のショークラブと、ニューハーフが踊るショークラブの金魚が、六本木で間近にあったことは、とても感慨深い。そして土方が後期「東北歌舞伎」と称し、谷本が「NEO歌舞伎」と称したなど、共通点も垣間見える。

 筆者は舞踏から入ってバレエ、日舞、コンテンポラリーダンス、フラメンコなどさまざまなダンスを見て、文章を書いてきたが、ショーダンスの世界の凄さ、深さを改めて知った夜だった。

2020.3.8 六本木 金魚所見

舞踊批評家:しが のぶお

STAFF
振付:加賀谷香・鈴木富美恵 他
ショーリーダー:三宮優子
舞台オペレーター:庄野正臣
音源編集:坂出雅海
映像:株式会社ピークスマインド
制作:株式会社 エープロジェクト・サービス