2018都民芸術フェスティバル参加公演
(公社)日本バレエ協会「ライモンダ」全幕

2018.3.10&11 東京文化会館・大ホール

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Japan Ballet Association
Raymonda

第三幕のグラン・パ・クラシックは、ガラ公演などで独立して上演されることもある場面だが、今回は一、二幕のドラマチックな展開を踏まえての結婚式だ。酒井は様式美に偏らず、腕を体の横からアン・オーに上げる際に、少し肩を上げ気味にする仕草で、溢れる歓びを表した。ヴァリエーションで手を打つ部分は音をさせず、貫禄たっぷり。堀口純と仙頭由貴がグラン・パのソリストを務め、チャルダッシュはソリストに小泉菜摘と冨川祐樹、ハンガリーはソリストに芝原美結、岡井萌、小山憲、佐藤祐基が出演した。
芳賀 望 高比良 洋
伯爵夫人:深沢祥子 酒井はな 福岡雄大 浅田良和
伯爵夫人:テーラー麻衣 米沢 唯 高比良 洋 芳賀 望 アンドレイ2世王:本多実男
本作はバレエ協会としてだけでなく、アリーエフ版としても初演という。アリーエフ氏本人が登場したプレトークで「演出」という言葉を選んで使っていた通り、オリジナルの振付というよりは、セルゲイエフ版を色濃く受け継ぎ、一部をカットしたバージョンだ。セルゲイエフ版はキーロフ劇場(現マリインスキー劇場)で1948年に初演された伝統のある版である。基が長年上演されてきた版だけに、完成度が高く安定感がある反面、異なる文化への理解が一層求められる現代に『ライモンダ』を新制作するにあたっては、もうひと工夫あってもよかったかもしれない。
チャルダース:原田貴子、貫渡竹暁
チャルダース:小泉菜摘、冨川祐樹
しかし出演者たちの役作りが功をなし、異教徒云々が傍にやられていたのは幸いだった。酒井が全幕の軸として常に存在感を発揮し、二人のタイプの異なる男が彼女を巡って戦うという、純粋なラブストーリーに仕上がっていた。アブデラクマンに品があったことも救いである。今の世の中では必ずしも”政治的に正しくない”点もある本作は、上演が困難な国もあるだろう。しかし、この作品のために作曲されたグラズノフの美しい音楽も含め、社会情勢が理由でバレエ作品が廃れてしまうのは惜しい。『ライモンダ』全幕は今後、どのような形で踊り継がれてゆくのだろうか。そんなことをじっくりと考えさせられる公演だった。

2018年3月11日ソワレ所感

すみだ・ゆう=詩人/舞踊批評家

ハンガリー:清水美帆、岡本小夜子、小山 憲、佐藤祐基
ハンガリー:芝原美結、岡井 萌、 小山 憲、佐藤祐基
グラン・パ・クラシック:清水あゆみ、雨宮 準
グラン・パ・クラシック:堀口 純、仙頭由貴
芳賀 望&米沢 唯
酒井はな&浅田良和
STAFF

原振付/マリウス・パティパ
音楽/アレクサンドル・グラズノフ
指揮/オレクセイ・バクラン
演奏/ジャパン・バレエ・オーケストラ
新振付・演出/エリダール・アリーエフ
振付指導/ユリヤ・スミルノーワ(サンクトペテルブルグ・ヤコブソン劇場)
     イリーナ・イワノーワ(チャイコフスキー記念バレエ劇場)
バレエ・ミストレス/佐藤真左美、鈴木未央、角山明日香
総監督/岡本佳津子
照明/沢田祐二
舞台監督/森岡 肇(ハージャイム・ステージ・スタッフ)
制作担当/金田和洋
監修/法村牧緒
制作補佐/江藤勝己、前田藤絵、江崎由美