NBAバレエ団公演「海賊」
2018.3.18 東京文化会館

2of 2
NBA Ballet Company
The Corsair

竹内碧&高橋真之
ストーリーから変化をさせるとなると、場合によっては踊りも大きく変わってしまうことが少なくないが、本作はそうではない。花園やヴァリエーションなど人気の場面もしっかりと観客の期待に応え、語り手である久保の解釈の中でしっかりと位置付けられている。言葉の様に交わされるマイムやダンスも演出の細かいところもしっかり押さえオールドファンの心情にも応えるバージョンだ。新旧幅の広い世代から支持される様な名作といえる。素晴らしいバレエと音楽の醍醐味、解かりやすいストーリーとそこから導かれる見事な心理描写、この2つがバランスよく並立することでこの名作が導かれた。
パシャ・ザイード:土橋冬夢&メドーラ:竹田仁美
 バレエ音楽もこの物語の変化と共に変わってきている。『メドーラとコンラッドとアリによるパ・ド・トロワ』、『夢の花園』などポピュラーな場面は良く知られた既存の曲だが、それ以外はオリジナルである。手がけたのはこのバレエ団で『死と乙女』(2016年)で話題となった新垣隆だ。久保の描く世界をしっかりと楽曲にしている。管弦楽はバレエ公演でも定評があるロイヤルチェンバーオーケストラで、指揮は『ロミオとジュリエット』(2017年)で好評だった新進気鋭の冨田美里だ。今回も2017年に続きドラマティックに心情を描き盛り上げた。衣装やメイクも演出を高めた。
オダリスク
鈴木 恵里奈  伊東 由希子  勅使河原 綾乃
 久保版の古典作品は、『ロミオとジュリエット』でも本作でも登場人物の関係とその構造をしっかりと分析し、その上で解かりやすく構成をする。故に焦点が合った物語が生まれ、その上で久保の個性も発揮される。音楽とバレエの相互から新たな成果が生まれてきた。
メドーラの竹田仁美はガラ公演やコンテンポラリーダンス公演(ジェローム・ベル『Gala―ガラ』など)でも活躍をみせる人気のバレリーナだ。この才能にとってテクニックは方法であり自由な心を持っている。コンラッドの高橋真之も実力のあるこれからが楽しみな男性ダンサーだ。今回は身体性のみならず演技力で魅せた。このバレエ団は男性も女性も優れた才能が登場し充実しだしている。
土橋冬夢&高橋真之
バレエは時代と共に進化する。19世紀から現代まで表現のみならず演出も発展し続けてきた。冒頭部のCGを使った演出も現代ならではかもしれない。ロマン主義的な想像力とテクノロジーが切りだす新しい地平は一般に解かりやすい民衆性も伴っている。芸術監督の久保の挑戦は近年のバレエ界の中でも意欲に溢れ際立っていた。それが次第に実をつけつつある。その活動がバレエ史に刻みだすこれからに期待したい。

2018.3.18 東京文化会館所見

舞踊評論家 よしだゆきひこ

竹内碧
        竹田仁美
竹内碧 土橋冬夢 竹田仁美
STAFF

芸術監督・演出・振付:久保紘一
作曲:新垣隆
振付助手:宝満直也
バレエミストレス:野田美礼 
バレエマスター:西優一、榎本晴夫、久保栄治、鈴木正彦
剣術指導:新美智士

舞台監督: 千葉翔太郎
照明プラン・照明: 辻井太郎
映像プラン:立石勇人

音楽監修・指揮: 冨田実里
演奏:ロイヤルチェンバーオーケストラ

制作プロデューサー:高崎美佐江
主催:NPO法人 NBAバレエ団