岸辺バレエスタジオ第30回記念発表会 「ジゼル」
2017.8.13 メルパルクホール

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Kishibe Ballet
Giselle Act1

「ジゼル」

音楽:アドルフ・アダン
振付:コラーリ/ペロー/プチパ

ベルタ:佐藤真左美 ヒラリオン:中家正博
ジゼル:八菜・オニール

隅田有のシアター・インキュベーター

《岸辺バレエスタジオ第30回記念発表会》が開催された。一部と二部は、キミホ・ハルバート振付『A Midsummer Night's Dream』や、岸辺光代振付『ロシアン・ダンス』などを含む作品集で、三部と四部が『ジゼル』全幕。出演者も上演作品も見どころたっぷりの、約5時間にわたる発表会だった。
アルブレヒト:フロロン・メラック&八菜・オニール
『ジゼル』は、同バレエスタジオ出身で、現在パリ・オペラ座バレエ団でプルミエール・ダンスーズとして活躍中のオニール八菜と、同じくパリ・オペラ座バレエ団のフロラン・メラックが主役を踊るという、豪華な顔ぶれだった。
クーランド公爵:佐藤洋介&バチルド姫:夏見亜友子
長身のオニールのジゼルは、村人たちの中に混じると頭一つ分高い。踊りはダイナミックで心地よく、はかなさよりも若さに裏打ちされた健康的な美しさが印象的だ。喜怒哀楽に裏表のない、恋に一途な村娘という役作りが、オニールの持ち味に良く合っていた。メラックの王子はどこか陰があり、手練手管を使ってジゼルを口説き落とすというよりは、溌剌としたジゼルにどうしようもなく惹かれてしまうといった風だった。

中家正博(新国立劇場)のヒラリオンは、メラックの王子にはない無骨さがある。ベルタの水汲みを手伝う優しさと、男手のないジゼルの家にどんどん介入していく厚かましさがあり、ひと癖ある森番としての存在感を示した。ベルタの佐藤真左美にはオニールのジゼルにも共通する朗らかさと、村娘たちを束ねる気っ風の良さが見られた。

ベザント パ・ド・ドゥ:奥村康祐&升本結花
奥村康祐
升本結花
ペザントは升本結花と奥村康祐(新国立劇場)。ジゼルとアルブレヒトのカップルとは対照的に、幸福な家庭を築いてゆくであろう二人である。息の合った様子が、自然なアイコンタクトの中に現れていた。奥村は、プリエを使って丁寧に降りる切れ味の良いジャンプと、軸のぶれない回転で、見せ場を作っていた。
パ・ド・シス
石川理子、大木知世、関ひかり、竹田理沙、中野里美、堀内紗良
一幕終盤、アルブレヒトと婚約していることをバチルドに告げられると、言い返せなくなってしまうジゼルも多いが、オニールのジゼルは「彼は私のものです」とはっきりとバチルドに宣言する。ヒロインの高ぶった感情がストレートに伝わり、会場からは感動で鼻をすする音が聞かれた。シニョンを解くと豊かな髪が腰の長さまであり、時たま煩そうに髪をかきあげる仕草には、前半にはなかった若い娘の生々しさが漂う。ジゼルが息絶えるとライトが舞台全体をセピア色で包んだ。
夕暮れの中、悲しみで静止した舞台は、それまでの色鮮やかな場面よりも、こころなしか客席から一歩引いて見える。一幕のラストシーンは観客にドラマチックな印象を与えるだけでなく、逃げ出すアルブレヒトの目に焼きついた、恋人の死の風景を表してるのかもしれない。