Dance Marche「オペラ座の怪人 ファントム」
2021.4.15&16 スクエア荏原 ひらつかホール |
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人間のドラマを描くという姿勢に共感
池上直子ダンス・マルシェ公演「Phantomーファントムー」 うらわまこと |
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バレエ、ダンスなどのいわゆる舞踊の舞台をみるとき、もちろん、ダンサーたちの踊りを楽しむのは当然ですが、私は、演出、振付がそれよりもっと重要だと思っています。 新作はもちろんですが、音楽のように、広く認められた楽譜と指揮者・演奏者という関係とは異なる舞踊の分野では、古典・スタンダード(広く長く各所で取り上げられている作品)でも、演出・振付の役割は重要です。 |
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まず言えるのは、古典の演出は、日本人はとても上手だということです。もちろん、きちんと著作権、上演権などの権利が明確になっているものは別ですが、いわゆる古典バレエの演出には、発表会でも感心させられるようなアイディアがしばしばみられます。日本人の振り付けた作品にも海外のものに比して遜色ないものがたくさんあります。 ただ、残念なのは、我が国では「振付者」という職業が確立していないことです。これは、まず自分の作品を上演するグループ(カンパニー)をもつ、ついで合同公演に振付を委託される、そして他のスタジオの発表会、さらに継続するカンパニーの公演に自分の作品を売る、あるいは新作を提供する。これが継続できるのが職業としての振付家の条件だと思います。そして、振付者が亡くなっても、その作品を権利として守りつつきちんと上演できるシステムが必要で、海外ではバランシン始め多数あります。わが国でも昨年亡くなった深川秀夫の作品でこのようなことが進められています。 観客にも実際に演出・振付に対する関心をもっと持ってもらいたいのです。もちろん、海外の振付者にはこれが普通ですが、日本人にももっとこういう振付者、そして観客が増えてほしいのです。 |
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ファントム:吉﨑裕哉
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ラウル:戸田祈
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今回の池上直子さんの新作『ファントム』をみて、このようなことを改めて考えました。 彼女は本間祥公さんに師事、比較的初期から創作に関心をもち、小スペースで作品を発表していました。そして2010年に、自らのカンパニー、ダンス・マルシェを立ちあげ、公演活動を続け、その後文化庁の海外研修、そしてドイツで活躍していた森優貴氏と組んで作品づくりに参加、『マクベス』などで共演したりしながら、徐々に自分の仕事の幅を広げています。このところ若手を育てながら『カルメン』、昨年には佐々木三夏さんのプロデュースによる「大和シティバレエ」に『牡丹燈籠』を提供するなど、名作を自分のスタイルで舞踊化する仕事で注目されるようになっています。 彼女の作品スタイルは、もともとドラマ性、ストーリー性のあるものを主体にしており、ダンス、具体的な動作、美術・小道具などを組み合わせて、ストーリーを進め、ドラマを表現しようとするもの。とくにインサイドを強調した動き、日常的な物体の象徴的な利用などには森優貴の影響が感じられますが、作品コンセプト、アプローチに彼女独自のものが現れています。 |
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吉﨑裕哉&クリスティーヌ:松岡希美
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さて、今回の『ファントム』です。原作は推理小説の歴史的名作『黄色い部屋』で知られるガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』、複雑な人間関係をもつ長編で、むしろ映画やミュージカルで知る人が多いでしょう。 |
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吉﨑裕哉&松岡希美
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彼女は、この複雑なストーリーを、芸術的な才能を持ちながら醜く生まれたため、マスクで顔を隠して劇場(オペラ座)の地下に住むファントム(吉﨑裕哉)、彼が愛を感じ、裏に表に力を与える劇場の花形クリスティーヌ(松岡希美)、そして若き劇場支配人ラウル(戸田祈)、彼もクリスティーヌに一途な思いを寄せています。この3人の関係を軸に、彼女の同僚、そしてコロスとして状況や心理状態を作り出す5人の女性カンパニー・メンバー、そしてファントムの過去・出自を示す少年を登場させます。使われるシンボルは愛の方向を示す薔薇の花、数枚の鏡のパネル、これは移動して空間を変化させるとともにクリスティーヌが自らの心を写すものにもなるのです。さらに適時現れてファントムのつらい過去を想起させる、鳥籠を持った少年。そして、原作でもミュージカルでもこのドラマのクライマックスとなっているのが、その心と素顔を知り、愛と決別を同時に意味する、クリスティーヌのファントムへの口づけ。そして彼女はラウルの元に向かいます。呆然とし、そしてくず折れるファントム。 |
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( 楽譜を持っている)ダンサー
冨岡瑞希、森加奈、後藤華歩、小泉朱音、大上のの |
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60分ほどのなかに、踊りと芝居、そして上記のシンボルを組み合わせてストーリーが進められます。全体としてうまくまとまっていたし、吉?はシャープな動きで強い存在感を示し、松岡もしっかりと動き演じていました。ラウルの戸田、少年役の生沼澪奈、他の出演者もよく役をこなしていました。 冒頭のファントムの境遇、心理を示すシルエット、舞台の深みを狙った照明、中黒や紗などの幕もうまく利用し、音楽も始めにウェーバーのメロディを使い、比較的同じ傾向の曲で統一性を意識していたことがうかがわれました。 全体として、各要素の使い方に多少の整理は必要と思いますが、コロナ禍による約1年の延期などの条件のなかで、彼女の振付者としての、ストーリー性、ドラマ性を重視する方向はよく現れていたと思います。 |
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大上のの 冨岡瑞希 小泉朱音 後藤華歩 森加奈
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ただ強いて言えば、ミュージカルの初演ではサラ・ブライトマンが演じたクリスティーヌ、もう少し衣裳や演出などで彼女のヒロインらしさを強調すると、それにより2人の男性の彼女への思い、アプローチもさらに切実さを増し、3人のドラマがより浮き上がったと思います。 これからの池上さんに求めたいのは、もう少し良い意味のエンタテインメント性、すなわちクライマックス、見せ場を強調する一方、力を抜いたコミカルな部分の役割も考えて全体を構成し、ドラマの流れのアクセントに留意すること。それには動きの多様性の追求も必要。こうすればさらに舞台の密度が高まり、アピール性が強まるのではないでしょうか。 いずれにしろ、テクノロジーやインスタレーションに過大にたよらずに、人間のドラマを感動的に描き出そうとする彼女の振付者としての姿勢には、共感と期待を持ちます。 4月15、16日昼夜、スクエア荏原ひらつかホール 16日昼の部所見 舞踊批評家 うらわまこと |
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松岡希美&吉﨑裕哉
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ファントム(子供):生沼澪奈
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