2023都民芸術フェスティバル参加公演
(公社)日本バレエ協会
「ドン・キホーテ」全幕
23.2.4 東京文化会館 大ホール

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Japan Ballet Association
Don Quixote


隅田有のシアターインキュベーター

2023都民芸術フェスティバル参加公演日本バレエ協会『ドン・キホーテ』

日本バレエ協会公演『ドン・キホーテ』が上演された。マシモ・アクリによる演出・振付である。キトリに水谷実喜(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)、バジルにアクリ瑠嘉(英国ロイヤル・バレエ団)が出演。一幕はプロローグとバルセロナの広場、二幕はロマの野営地と夢の場、三幕は酒場と結婚式という構成。音楽は一般的な演奏よりも尺の長いスコアで、カーテンコールも含めると正味3時間に迫る、見ごたえのある舞台だった。

サンチョ・パンサ:奥田 慎也&ドン・キホーテ:保坂アントン慶 
キトリ:水谷 実喜&バジル:アクリ 瑠嘉
ロレンツォ:柴田英悟
エスパーダ:遅沢佑介
遅沢佑介&メルセデス:渡久地真理子
渡久地真理子
サンチョ・パンサ:奥田 慎也
ビッキリア:オーム・ソフィア ジャネッタ:高橋夏海
初日の主役を務めた水谷とアクリ瑠嘉は、イギリスの名門カンパニーでそれぞれプリンシパルとファースト・ソリストとして活躍中。水谷は小柄で華奢だが強靭なテクニックを持ち、正しいポジションに瞬時に入るソリッドな踊りが魅力だ。難易度の高いパはもとより、3幕のヴァリエーション冒頭の、アラベスクの見事なバランスに、プリンシパルの余裕が感じられた。
対してバジルのアクリ瑠嘉は、踊りも芝居もダイナミックで、わけても回転が上手く、パのまとめ方に沢山の引き出しを持つ。一つ一つの動きに可能な限り“アソビ”を加えてくるので、舞台に出ている間じゅう目が離せない。例えばキトリの友人を交えて踊る一幕のトロワでは、ジャンプの際に小さく首を振ることで動きに面白みを追加し、3幕の酒場のソロでは、オフバランスを自在に使って酩酊した様子を表していた。ダンサーとしてのタイプは異なるものの、しっかり者のキトリと陽気で憎めないバジルというカップルが、現実の世界にもいそうな組み合わせに見えてくるほど、双方が役を自分の持ち味に寄せていた。
水谷 実喜&アクリ 瑠嘉
アクリ 瑠嘉&水谷 実喜
ガマーシュ:伊坂文月
役者の才能溢れるアクリ瑠嘉に、ガマーシュ(伊坂文月)とロレンツォ(柴田英悟)を加えた3人の掛け合いが面白く、さらに酒場ではガマーシュのために1曲用意されていた。コミカルな要素を追求していることがよく分かるプロダクションでありながら、ガマーシュの薄毛を笑う、月並みな演出がカットされていたのは素晴らしい。ここから先は少々煩い注文ではあるが、一幕のサンチョのスカートめくりが、もう少しマイルドな表現であれば、更に今日的な配慮が増したのではないだろうか。
ロマ達の踊り〈ジプシーダンス〉:荒井成也&橋元結花
ロマの踊り〈ソロ〉:大木満里奈